2019年9月29日日曜日

モバイルミュージアムの話

「モバイルミュージアム」という言葉を聞いたことはありますか。
モバイルミュージアムの定義は次のようなものです。(『モバイルミュージアム 行動する博物館』西野嘉章/平凡社新書2012)
 展示コンテンツをユニット化し、あちこちの場所に、単体として、あるいは複合体として、中長期にわたって仮設し、公開する。展示ユニットは一定の期間が過ぎると、次の場所に移動してゆく。
  これまでミュージアムと言えば、美術品や文化財などを収集し、保管し、公開する半恒久的な施設と考えられてきました。これをベースとして、「移動」という視点を加えたものがモバイルミュージアムとなります。
 これまでのミュージアムは固定された施設であるという概念の枠を超えて、あらかじめ移動しやすいように展示品などはユニット化しておき、ある場所での展示期間が終われば、次の会場に移動するという形で複数の会場で開催することを制作段階から念頭において、設計されるという特徴があります。
 展示品はものにもよりますが、制作費も決して安いものではありません。たとえば、初めから全国各地あるいは世界の様々なところで公開することを念頭において、設計し、各地を巡回するというモバイルならば、コストパフォーマンスもよいと思われます。また、固定された施設の維持費も安くはありません。よく言われることですが、自治体が「箱もの」と言われる施設を作っても、その維持・運営費を賄うことが財政をひっ迫させる要因になることはたびたび指摘されていることです。
 このモバイルミュージアムならば、その大きさにもよりますが、それほど大規模でなければ学校の空き教室を利用して開催することも可能です。さきほどの『モバイルミュージアム 行動する博物館』の中でもそのような学校の教室を利用した具体事例が紹介されています。
東京の文京区立湯島小学校において、2009年に「鉄---百三十七億年の宇宙誌」として製鉄会社の協力を得て、東京大学総合研究博物館が「スクール・モバイル」事業がその一例です。このようなミュージアムは子供だけでなく、その学校の教師や近隣の住民などにも公開することができ、学校教育・生涯教育の両面からその効果を発揮できるものです。

 このように発想を少し変えるだけで、これまでの活動がリニューアルされ、それまで以上の成果を上げることがよくあります。やはり今日では様々な分野で「イノベーション」という発想が求められる所以です。

 個人的には、そのような「モバイルミュージアム」において、サイエンス・コミュニケーションの視点を大切にした展示ができるとよいと思います。近年の科学の急速な進展により、一般市民が科学から置き去りにされているのではないか、専門家が独走しているのではないのかという議論がこの20年あまり繰り返されてきました。
加えて、学校教育においても「理科嫌い」の子供が増加し、それに対する対策としてもサイエンス・コミュニケーション、すなわち子供も含めた一般の人々と科学の距離を縮めようという方策の一つが「サイエンス・コミュニケーション」の考え方です。具体的には、科学者が科学博物館などの公開講座に講師として、積極的に一般市民への啓発活動に従事したり、小中高校の授業に特別講師として参加したりなど様々な工夫が始まっているところです。
 先ほど紹介した事例にもありましたが、学校内に空き教室を利用してモバイルミュージアムを置く、一つの方法ですが、子供たちが制作したものや学習成果物を展示する方法もあります。社会に開かれた教育課程を標榜するのであれば、ぜひ後者のような形で教室内の学びを地域社会に開いて、そこに新たなコミュニケーションの場を創り出す、そんな工夫が大切であると思います。それほどお金をかけずに、お互いに知恵を出し合っていけば、よいものができるのではないでしょうか。
教育現場では現状維持ではますます状況がわるくなるばかりです。
どうすれば今の状況を根本的によくすることができるのか、そんな思いをおもちの皆さんにぜひおすすめしたいのが、『教育のプロがすすめるイノベーション』(新評論2019)です。
この本には、具体的な事例を通して、管理職、教師がどのようにコミュニケーションを図りながら改革を進めていけばよいかが示されています。これからの学校改革になくてはならない本の一冊だと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿