今月10日「ブラックホールの写真撮影に」というニュースが話題になりました。
100年以上前に発表されたアインシュタインの一般相対性理論からその存在が予言されていたのですが、それが実証されたということです。40年以上前に私が大学で相対論の講義を聞いていた頃は、一般相対性理論については少し懐疑的なところもありました。
それが実証されたということも驚きですが、今回の観測に当たって「VLBI」(超長基線電波干渉計)のしくみというのも素晴らしいと思います。一つの電波望遠鏡では小さいので、その口径を大きくするために世界6か所にある電波望遠鏡を仮想的につないで、一つの巨大望遠鏡に仕立て上げて観測をしたわけです。言わば、地球を一つの仮想望遠鏡と見立てたわけで、この発想が素晴らしいのです。無いない尽くしの学校現場ではありますが、制約の中で工夫する、イノベーターの発想が求められると思います。
さきほど、アインシュタインの予言の話をしましたが、この一般相対性理論の中心である「アインシュタイン方程式」も実に数学的に美しいと思います。興味のある方は、ぜひ『世にも不思議で美しい「相対性理論」』(佐藤勝彦・実務教育出版2017)を手に取ってみてください。また、映画好きな方は、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』をご覧ください。主人公の家族愛もさることながら、「特異点」「事象の地平面」などが視覚的にわかりやすく描かれています。
理科の学習において、その原理やしくみがよく理解できないのに、問題の答えがわかればよいのだと言わんばかりに、公式や法則を丸暗記させて、指導するやり方が受験対策などで盛んに用いられていると思いますが、それでは理科における探究の面白さを台無しにするだけです。理科の醍醐味は探究の過程にあるのですから、肝心なところを省略して自然の美しさやシステムの精緻さなどを実感することは不可能です。この問題解決のプロセスを大切にすることは、理科に限らず多くの教科においても通じるものがあります。
昨年まで幼稚園教諭免許取得に必要な「保育方法」について教えていたのですが、幼稚園の先生方への指導資料集の中に、「カメがミミズを食べる」場面に子どもたちが遭遇するというものがありました。それを目撃した子どもたちからは命と命がぶつかり合う場面に遭遇して、生きることのすごさを実感している言葉が次々と出てくるのです。「生命の尊さ」はいくら言葉にしてもピンとこない4,5歳の子どもたちもこのような体験を通して、生物の生きる世界の迫力を肌で理解するわけです。「百聞は一見に如かず」とはまさにこのことです。理科という教科はこのような自然体験を通じて、自然のしくみの巧みさや美しさなどを学んでいく教科だと思います。ですから、時には戸外に出て、自然の中に身を置くという体験が欠かせないものだと思います。もし、環境的にそれが困難であれば、校外活動などを次善の策として講じるとよいと思います。
したがって、幼児期のこのような自然体験は人としての健全な成長のためにも、科学の探究の面白さを理解する上でも欠かせないものです。その大切な時期に早期教育と称して、英語やプログラミング教育に必要以上に力を入れることが果たしていいことなのか、じっくりと考える必要があると思います。
ここで、一つ思い出した本があります。『不思議の国のトムキンス』です。
この本は、銀行員のトムキンスが当時流行していたハリウッド映画よりも面白いものは何かと考えて、ある大学の物理学者の講演に出かけるというお話です。その講演の中で、トムキンスは夢を見るのですが、その中で光の収差やドップラー効果などが暗示的に解説され、「量子の部屋」の比喩的な解説などがとても愉快な物語となっています。
その本のタイトルにもなっている「不思議」さに子どもたちが出合い、自然の美しさや巧みさに歓声を上げるような「センスオブワンダー」のある理科の授業を作り出したいものです。具体的な方法については、後日改めてふれたいと思います。
昨日から10連休が始まりましたが、特に遠くに行く予定のない方は、近くにある博物館や科学館に行ってみてはどうでしょうか。新しい発見や不思議なものとの出会いがあるかも知れません。「知りたい」「わかりたい」という欲求は本来だれにも備わっているものだと思います。そのような欲求を満たす授業でありたいものです。
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