最近「子どもの声を社会へ」(桜井智恵子・岩波新書2012)を読みました。
この本の最初の部分に、「国連・子どもの権利委員会」からの勧告が掲載されています。
(この文章は外務省のホームページにも掲載されているそうです)
その部分を貼り付けます。
・高度に競争的な学校環境が、就学年齢にある児童の間で、いじめ、精神障害、不登校、中途退学、自殺を助長している可能性があることを懸念する。
・委員会は、締約国が、質の高い教育と児童を中心に考えた能力の育成を組み合わせること、及び極端に競争的な環境による悪影響を回避することを目的とし、学校及び教育制度を見直すことを勧告する。
・委員会はまた、締約国が同級生の間でのいじめと闘う努力を強化し、及びそのような措置の策定に児童の視点を反映させるよう勧告する。
これは、この本の本文にも書いてあるのですが、このような勧告があったことを教育現場の教員は全く知りません。行政の縦割りの弊害と言ってしまえばそれまでですが、こんな重要なことが教員に知らされていないことは驚きです。
「質の高い教育と児童を中心に考えた能力の育成を組み合わせること」「競争的な環境による悪影響を回避すること」を目的として、「学校及び教育制度を見直す」ことを勧告しています。これは、PLC(学びの共同体)のねらいとする方向と軌を一にしていると思います。
ところが、どうでしょうか。
今、再び「競争」によって学校を改革しようとする潮流が大きな勢いになりつつあります。現状に安穏として、不甲斐ない教員をやる気にさせるには、「競争」と「懲罰」しかないという考え方です。
これでは、今解決が求められている様々な問題が余計に悪い方向に行くばかりです。
この本のなかで、子どもたちの声がいくつか紹介されているのですが、その一つに次のようなものがありました。
「うまく説明できないけれど、学校に行くのが辛い」
この発言は不登校になったある小学生の男の子の声ですが、この子はいじめや教員との関係がうまくいかなくなって不登校になったのではなくて、自分でもうまく説明できないけれど学校に行きたくないという状態でした。最初のうちは、両親とも本人を学校に行かせようと焦っていましたが、相談員が両親と面談を重ね、子どもの気持ちを説明しながら、これからを探る方法もあることを伝え、それによって保護者の不安が徐々に和らいでいき、自宅で本人を力づける態勢を取ってもらえるようになったということです。
学校が楽しいものであるなら、何とか我慢して学校に行こうとする気力も湧いてくるでしょう。しかし、学校へ行くことが楽しくなければ、子どもたちは学校から遠ざかっていくものだと思います。
教育学者の佐藤学さんはかつて、「学びからの逃走」と表現しましたが、学校が社会からの様々な圧力によって「生きづらい環境」になってしまったのならば、それこそ最大の悲劇です。
教育制度についてここで論じても仕方ありませんが、私たちにできることはそれぞれの現場で、「子どもたちが中心」の「質の高い教育」を創り出すことです。
それには、PLC(学びの共同体)を創り出すためのノウハウをもっと多くの人が実践し、そのよさを理解して、さらに多くの人たちと共有する必要があります。このような「草の根の改革」が最も待ち望まれているものだと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿