教師と学習者の信頼関係の構築★1 に関する原則4は、「すべての学習者を信じる(Believe in all your learners)」です。
ここでいう「すべての学習者を信じる」とは、「すべての学習者に進歩する能力がある」と確信することと言い換えても良いと思います。生まれながらにしてもった才能や能力によって決まるという考え方と対極にあるものです。
スタンフォード大学のキャロル・S・ドゥエック教授が提唱した成長マインドセットの考え方そのものです。人間の能力は努力や練習によって成長できると信じる考え方で、困難や失敗を学びの機会と捉え、粘り強く挑戦し続ける特性を指しています。
「すべての生徒を信じる」とは、教師が学習者の能力に対して、成長マインドセットをもつということ言えるでしょう。
ただし、重要なポイントは、成長マインドセットをもって生徒たちを見守っているだけではなく、「行動」を通じて、マインドセットの重要性を示すシグナルを送り続ける必要があると言えます。単に、心の中で「念ずる」だけではダメで、何らかの行動で示さなければ、生徒たちは「信じられている」とは思えないということでしょう。
どのような行動があるでしょうか?
間違いを恐れない姿勢を身につけさせる。例えば、授業中に間違いをしなければ、それは学んでいないか、全力を出し切っていないだけだと説明する。生徒に「間違いノルマ」を割り当てるという、とんでもない提案をする研究者もいるようです。
自分自身がコントロールできることについて、振り返りをさせる。学習者が費やした時間や努力、使用した学習方法などについて、振り返りをさせることで、成長できる余地があることを実感させる。
「気にかけて」くれているということを生徒たちが感じられる行動をとる。情緒面での支援や声がけも大切ですが、何と言っても、教材や授業準備に、教師がどれだけ熱意をもって取り組んでいるかを見せること。つまり、生徒の学びに対して、教師がどれだけ真剣に向き合い、その結果に対して、責任を果たしているかを示すことが大切であると言うのです。
研究においても、ケアリングの大切さは明らかにされているようです。
「研究によって非常に明らかになっていることがある。教師がケアリングな人(自分たちのことをよく考えてくれる存在)だと学習者が考えている場合、彼らは学習内容にますますエンゲージするようになり、わからないことがあれば調査等の知的冒険をし、たとえ失敗したとしても粘り強く学び続ける傾向があるのだ。」(デービス他 2012)
このようにみてくると、教育という営みが、非常に人間的なものであることを、改めて実感させられますね。
気にかけてもらえる(ケアしてもらっている)というのは、大人にとっても、とても重要な意味をもちます。無視という行為は、相手の存在を否定し、孤立感や精神的苦痛を与える行為なのですから。そこから、信頼関係が生まれるはずはありません。
★ サラ・マーサー/ゾルタン・ドルニュイ(2022)『外国語学習者のエンゲージメント』アルク.(原著 Mercer, Sarah and Dörnyei, Zoltán (2020) Engaging Language Learners in Contemporary Classrooms,Cambridge Professional Learning.),p.78.
「教師と学習者の信頼関係を構築するための6つの原則」
原則1 近づきやすさ
原則2 共感的態度で応じる
原則3 学習者の個性を尊重する
原則4 すべての学習者を信じる
原則5 学習者の自律(立)性を支援する
原則6 教師の情熱を示す
注)原則5の「自律性」は”autonomous”の訳語ですが、「自立性」を採用する方が本来の意味に近いと思われます。
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