世界は長らく戦争や内紛、経済的格差、地球規模での環境問題といった重大な課題に直面しています。これらの問題に対処するため、私たちが取るべき道は、持続可能な社会を築くことです。
現在、私たちが行っている教育活動が、社会の改善にどのように寄与できるかを考えることは重要です。子どもたちと共に築く社会についてのビジョンを持つことは、未来の方向性を確立する第一歩となります。まずは立ち止まり、どのような世界を望むのかを考え、議論してみる必要があります。よりよい世界へ向かうために、ジェイソン・ヒッケルの著書『資本主義の次に来る世界』を参考に、具体的なアプローチを探ってみましょう。
私たちは今、人新世(Anthropocene:アントロポセン、人類の時代)と呼ばれる時代に生きています。この時代は、人類の活動が地球に深刻な影響を与えていることを意味します。気候変動、生態系の回復力の低下、そして私たちの文明そのものが危機に瀕していることが、これらの現象から明らかになっています。この問題の根本にあるのは、私たちが採用している経済システム、すなわち資本主義なのです。
資本主義は、絶え間ない拡大、つまり成長を要求し続けるシステムです。世界のGDPは、少なくとも年間2%から3%成長し続ける必要があり、これは23年ごとに経済規模を倍にするということを意味しています。この成長の要求が、地球に対する私たちの影響を増大させ、結果として生態系の崩壊を加速させてしまっているのです。
政治家たちは、この成長主義を信奉していますが、それによって生態系崩壊を食い止めるための有意義な行動を起こすことが困難になっています。一方で、技術の進歩はGDPを生態系の影響から切り離す可能性を秘めていますが、現在の成長志向の経済システムでは、この技術進歩がさらなる成長のために利用されてしまっている現状があります。
2018年、238名の科学者が、GDP成長を放棄し、人間の幸福と生態系の安定に重点を置く新しい経済システムの必要性を訴えました。彼らは、成長から脱却することで、私たちが何を生産し、人々が生活に必要なものにアクセスできるか、所得がどのように分配されるかに重点を置くべきだと主張しています。
高所得国は、さらなる経済成長を必要としていません。むしろ、私たちは経済を資本蓄積のためではなく、人々の幸福のために再構築する必要があるのです。地球温暖化を1.5度以下に抑え、生態系の破壊を阻止するには、資源の消費を減らし、エネルギー消費を削減することが重要なのです。
「脱成長」とは、経済を成長させないままで、貧困を終わらせ、人々をより幸福にし、すべての人に良い生活を保障できるということです。脱成長は、経済の物質・エネルギー消費を削減し、生物界とのバランスを取り戻すことを意味します。このプロセスでは、所得と資源を公平に分配し、公共財への投資を通じて人々を不必要な労働から解放することが含まれます。
脱成長が実現すれば、GDP成長は停止、あるいはマイナスに転じるかもしれませんが、GDPは重要ではありません。脱成長は成長を必要としない新たな経済モデルへの移行であり、その中心は無尽蔵な資源の蓄積ではなく、人類の繁栄と生態系の安定にあります。
このアプローチでは、クリーンエネルギー、公的医療、公共事業、環境、再生可能農業などの分野の成長を重視し、化石燃料、プライベートジェット、武器、SUV車などの生態系を破壊する部門を縮小する必要があります。大量消費の停止に向けては、以下の5つのステップが提案されています。
1. 計画的陳腐化の終了
企業が故意に製品の耐用年数を短く設計する「計画的陳腐化」を止める必要があります。例えば、1920年代にアメリカの電球メーカーが行ったように、製品の寿命を短くすることで販売数を増やす戦略です。これに対抗するためには、保証期間の延長を法律で義務付け、修理の容易さを確保することが求められます。例えば、家電製品の寿命を25年まで伸ばす技術はすでに存在し、これにより製品の消費量を大幅に減らすことができます。
2. 広告の削減
広告業界は、過剰な消費を促進する戦略の一環として長年にわたって発展してきました。消費者に不要な商品を購入させるための心理操作が行われています。例えば、ファッション業界では、トレンドに敏感な消費者をターゲットにした短命の製品が市場に溢れています。広告の削減は、不合理な消費決定を減らし、より持続可能な消費行動を促進することに繋がります。
3. 所有権から使用権への移行
資本主義社会においては、個人所有が一般的ですが、これが非効率と過剰消費を招いています。例えば、月に一度しか使わないような芝刈り機や工具などを個人が所有するのではなく、地域共有のリソースとして管理することで、製品の必要性を大幅に減らすことができます。また、公共交通の強化やシェアリングエコノミーの促進も重要です。
4. 食品廃棄の終了
世界的に見ると、生産される食品の約50%が廃棄されています。高所得国では、スーパーマーケットの厳しい基準や消費者の購買行動が原因です。一方、低所得国では輸送や保管の問題が主な原因です。この問題に対処することで、農業の規模を半分に減らし、CO2排出量を削減することが可能になります。
5. 生態系を破壊する産業の縮小
例えば、牛肉産業は大量の土地と資源を消費し、森林破壊の一因となっています。このような資源効率が低い産業を縮小し、より持続可能な代替品への移行を進めることが求められます。牛肉の消費を減らすだけで、大規模な土地が森林再生に利用できるようになり、CO2排出量も大幅に削減できます。
これらのステップは、私たちの日常生活や経済システムにおいて、より持続可能な選択を行うための基盤となります。それぞれのステップは、地球環境への負荷を減らし、より良い未来への道を切り開くために重要な役割を担っているのです。
私たちは、人間と自然の関係についての古い二元論から脱却し、アニミズムのような存在論に回帰する必要があります。この考え方は、人間と自然が相互依存の関係にあり、共に生きていることを認識します。現代の科学も、この考え方に追いつきつつあります。最終的に、私たちは経済を成長の必要性から解放し、生態系の安定と人間の幸福に重点を置く新しい経済モデルを採用することが求められています。この新しいパラダイムは、私たち全員にとって持続可能な未来への道を開くことでしょう。
改めてありたい社会とはどういうものか、考えてみてください。
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