大学で教養科目の「生物学」を教えていたときに、高校で生物学を履修していない学生にも興味をもってもらうために、関連する図書を資料にしました。そのなかで、石浦章一さんの『小説みたいに楽しく読める 生物科学講義』(羊土社)は読んでいて面白いと思えるものでした。その石浦さんが今年の10月に『理数探究の考え方』という本を出されました。「理数探究」とは、2022年度から高校で新設された教科「理数」で、「理数探究基礎」とその上位科目の「理数探究」から構成され、選択科目になっているものです。この科目は数学と理科の知識や技能を総合的に活用することをその目標にしているものです。いわゆるクロスカリキュラムですので、高校の先生方もその実施には苦労されているのではないでしょうか。
この本には、「理数探究」を進めるにあたっての授業のヒントもありますが、どちらかと言うと、理科教育全般についての話が多いようです。その中で、小学校の理科について、次のようなくだりがありました。(同書102ページ)
小学校で理科がどう指導されているかというと、理科と実生活の関連を図る授業が少ないのです。「教えることが多くて教科書を進めるだけで精一杯」という言葉もよく聞かれます。本当に必要な理科専任の教員がすべての小学校に配属される、こういう時代にならないといけません。
後半の理科専任教員の配置は現実的には難しい問題かもしれませんが、前半の実生活との関連を図る授業は実現可能ですし、すでに取り組んでおられる先生方も多いと思います。
今から30年くらい前に子どもたちの「理科離れ」が問題になり、様々な施策が打たれました。理科の専門家を特別講師として学校に派遣したり、博物館・科学館と学校との連携を推進したりといろいろありました。それらの事業は当初3年くらいは文科省からの支援がありましたが、その後は補助金が打ち切られました。そうなれば財政に余裕のある自治体ならいざ知らず、多くの自治体や学校はそれでおしまいとなったように思います。依然として、「理科離れ」は解決されない問題として積み残されたままです。特に高校から理系の大学に進学する学生の5割が文系、3割が理系のようです。科学技術立国を国の目標とするならば、理系をあと1,2割増やす必要があるでしょう。
さて、小学校理科に話題を戻しましょう。先ほどの石浦さんは小学校理科で、「ものの大きさを数字で表す」「実験は何回かやって、データの平均を取る」「結果をグラフで表す」などの科学の作法を発達段階ごとにきちんと教えていくことを強調しています。
たとえば、「大きな花がさいた」というときに、身近な何かと比較したり、大きさそのものを数字で表したりすることが理科では重要であるというわけです。これをやっておかないと論理的にものを考えるなどと言うことが難しくなります。
もっとも小学校学習指導要領【理科】の目標の中に「自然を愛する心情を育てる」という情緒的なものが入っています。感性を大切にするというのは、人格の完成には不可欠のものですが、科学そのものとは別物です。案外そこをいい加減にしている教師も皆無ではありません。
高等学校理科の目標にはこの心情的な目標はありませんので、ぜひそこにつながるように自然科学の基礎的な作法は義務教育段階で養っておきたいものです。また、科学と数学は切り離せないものですから、理科同様に算数・数学にも力を入れたいものです。そのためには、算数を教える教師は「数学の本質」を理解しておくことが大切になるでしょう。
『数学とはどんな学問か?』(津田一郎・講談社ブルーバックス)『算数からはじめよう!数論』(R.F.Cウォルターズ・岩波書店)などが入門としておすすめです。
実は最近「数論(整数論)」の本を読んでいます。これまで数学は単なる科学の道具としか認識していませんでしたが、それが浅薄な理解だったと今更ながら気づかされます。
今年も一年間このブログをお読みいただきありがとうございました。
来年も引き続き、よろしくお願いいたします。
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