最近ではコロナ感染状況も落ち着きをみせ、以前のようなグループでの学習活動が教室内にもどってきました。勤務校においても換気をしながら20分以内ならば向き合っての会話活動は可能と判断し、またそれ以上の会話では、パーテーションを付けて向き合う学習活動を可能としました。
子どもたち同士が話し合い、新しい考えをつくり出し、クラス全体で考え合おうと議論が始まる。そんな場面に遭遇する度に、教師という仕事の魅力を感じます。一方で、なかなかうまくいかないのが話し合い活動。話し合ってはいるものの、意見の紹介で終わってしまい考えが深まらないことも。
子どもたちの話し合いが成立していれば安心しているレベルから、さらに会話がもつ深い世界へ引き込んでくれる、そんな待望の本があります。それがジェフ・ズィヤーズ (著)、 北川雅浩・竜田徹・吉田新一郎 (翻訳)『学習会話を育む: 誰かに伝えるために』新評論。著者のズィヤーズはスタンフォード大学の教育研究者で15年以上にわたって現場教師とともに教室での話し合い活動を改善するため、子どもたちの会話スキルを高めるだけではなく、会話を通して学習内容の理解を深め、さらには思考スキルや言語能力を高めることに取り組んできた方です。この本は、授業中の会話をより実りあるものにしたい、学習会話の質を高めるための具体的な手立てと教室アクティビティーを学びたいと願っている教師の皆さんのために書かれたものです。
「学習会話(academic conversation)」とは、二人以上の子どもたち同士の会話を指し、子どもたちは会話を通して少なくとも1つの考えがつくられるように努めます。効果的な学習会話によって、学習内容の理解、言語能力の向上、社会的感情的スキルの向上、学び手としての自信と自覚を高めること、さらには公平性の促進、学習に生かすための実態把握まで可能となります。この学習会話は教科や学習内容にかかわらず、広く運用が可能な点においても、ぜひ身につけておきたい考え方とスキルです。
学習会話で用いられる中心となる学習会話のスキルには以下の5つあります。ただ話し合っていたグループトークから、その会話で何を話し合えばいいのか、明確に示しています。
スキル1 考えをつくり上げる
学習会話では考えを協働して作りあげるそのプロセスと会話のスキルを用いることへ意識を向ける必要があります。考えをつくるとは、①たたき台となる考えを出す、②考えやそれを伝える際に用いられた語句を明確にする、③根拠や事例、説明を用いて考えを支えることです。本書からの例を見てみましょう。
A「僕は良いチームだったと思うよ」
B「どうして?」
A「だってクラークは自然について知っていて、ボートもつくれるよ。ルイスは医者みたいだし、それに…」
B「しかも、クラークは植物について何でも知ってるもんね」
A「そのことは、何の役に立つの?」
B「植物を食べなきゃいけない時があるよね。でも毒のあるものは食べないようにしなければならない。たぶん薬になるものも探さなきゃならないだろうし」
A「さらに、他の人は別のことを知っている」
B「それってルイスのこと?」
A「そうそう」
B「別のことっていうのは?」
A「ルイスは地図が読めるんじゃないかな」
B「彼らは地図を持っていた?」
A「すべての工程じゃないと思うけど、たぶん」
B「最初の部分だね」
A「おそらく、ルイスは地図の描き方を知ってたんじゃないかな」
B「そうだろうね」
A「僕も彼らが良いチームだったことに賛成だよ。」
本書 P.16より
※アメリカ最初の探検家ルイスとクラークは、陸路で太平洋に向かって探検をした(1804年〜1806年)ことで知られています。
この会話によって、子どもたちは話す以前には思いつかなかった新しい考え「良いチームであったこと」をつくり上げています。会話はこういったライブ感こそ魅力であり、と同時に秩序のなさでもあるため、そのスキルが必要になるのです。
スキル2 たたき台となる考えを出す
会話を始めるためには、まずたたき台となる考えを少なくとも1つ出す必要があります。 たたき台として出したそれぞれの考えは、協力して練り上げていくだけの価値のあるものか否かを見極め、適切なものが選べる能力を子どもたちに身に付けさせる必要があります。
スキル3 考えを明確にする
「それは私たちにとって何を意味しますか?」「自由をどのように定義していますか?」「もう一度、言ってもらえますか?」など、必要な情報を引き出す質問をし、意味を共有し全員を同じ土俵に乗せること、それが明確にすることです。
スキル4 考えを支える
理科における実験データ、歴史の一次資料の根拠、算数・数学では見つけたパターンについて一般化を支えるための演繹的な説明など効果的な会話をするためには、事例や根拠、理由を用いて論証し、考えの説得力を高めることがとても重要です。
スキル5 評価する、比較する、1つを選び出す
討論や決議の場面では、複数の競合する考えのどちらが有力であるか、最善の考えを決める際に、比較検討したり評価することが求められます。しかし、すぐに意見を出して会話を始めてしまうことで、その意見を守ろうと固執してしまい、相手を言い負かし討論で勝つことに専念してしまうことがあります。そのため、自分の意見をそのまま最初に述べることから始めないことです。最後まで自分の意見を保留しておき(少なくとも心の中に留めておく)、両方の考えを作り上げることから会話を始めた場合は、両方の側面についてしっかり理解した上で、最終場面での客観的な判断が可能となります。
これらの学習会話を洗練させるには、教師による「問いかけ」が重要です。指導書に示された誰にでも当てはまるように準備された発問例ではなく、目の前の子どもたちが何を知っていて、何を知る必要があるのか、そして何に興味があるのか、子どもたちの実態を理解している直接的な教師にしか作れない魅力的な「問いかけ」をつくる必要があります。
そのため、効果的な「問いかけ」には明確な教師からの期待や指示を含んだものになり、単なる発問よりも長くなるケースが多くなります。表にその他の効果的な「問いかけ」例を載せておきますので参考にしてみてください。(本書P.43より)
学習会話は学んだことを形にし、自分たちのものにするための絶好のチャンスでもあります。多様な考えをつくり上げることこそが1番の学びです。それぞれの考えをできるだけつくり上げたいもの。そのためには、他の人を尊重し大切にし、他の人から学ぶ必要があります。
授業中あまり話さない子どもの声をクラス全体の学習に活かし、子どもたち自身が自分たちは考えをつくり上げる力がある信じることです。学びとは様々なこと読む、書く、考える、話す、聞く、見る、会話するなどに取り組んで有意義な考えを作り上げることだというマインドセットを育てていくのです。
学習会話の効果は授業の場面に限りません。日常生活において困ったときには話し合って解決しようとする文化が育いくことでしょう。この本は単なるスキル本ではなく、学びとは一体なんなのか? そして、話し合い、対話をしていく民主的な文化を育てていく、そんな深みを持っています。子ども同士の話し合いは、勉強をできる子の一方的な説明で終わってしまいがちです。新しい考えを生み出すための学習会話へとそのスキルとマインドセットを学んでみませんか。この冬休みに『学習会話を育む』ぜひご一読を。
PLC便り『新刊案内 学習会話を育む』
http://projectbetterschool.blogspot.com/2021/10/blog-post_24.html
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