学校では、意見の対立は、日常茶飯事だろう。教育の問題は、正解が一つであることはないのだから、当然である。皆さんは、どのようにして様々な問題に対処しているだろうか。
著書『麹町中学校の型破り校長-非常識な教え』などで知られる工藤勇一校長は、上位概念による問題解決を提案している。★1 一例として紹介しているのが、生徒たちが体育祭の種目廃止に取り組んだ事例である。中3生全員参加のリレーは、毎年大いに盛り上がっていたという。その種目をどうするかが問題になった。生徒会がとったアンケートでは、8対1で賛成派(リレー継続)が圧倒的に優勢。多数決でそのままものごとを決する学校であれば、問題なくリレー継続が決まったはずだ。しかし、10%の生徒がリレーを走りたくないという意見をもっていた。
そこで、工藤校長は、生徒たちに結論を委ねるにあたり、「生徒全員が楽しめること」という上位概念を提案したそうである。生徒たちは、白熱した議論を重ねたようだが、最終的に「走りたくない」という少数派の意見を尊重して、リレー廃止を決断したそうである。そのうえで、運動の苦手な生徒も楽しめる種目を考案したとのこと。
重要なことは、生徒たち自身が、少数意見を尊重して、自分たちで結論を出そうとしたことだろう。提示された上位概念について深く考え、単純に多数決で決めなかった。
また、PBLでも、生徒が上位概念によって問題解決を図った事例がある。★2
都市計画のPBLに取り組んだ、アメリカの高校生の事例だ。生徒たちは、アーバン・ランド・インスティチュート(ULI) (https://japan.uli.org (http://minnesota.uli.org/programs-and-events/urbanplan/)が提案した都市計画プログラムに取り組んだ。生徒たちには、ヨークタウンという架空の町のさびれたエリアの5~6ブロックを再開発するための提案書を作成することが求められた。
その中で問題となったのが、ホームレスの保護施設をどこに置くかだった。その施設があることで犯罪が多くなっていたからだ。「実際そこに生活する人だったら、ホームレス保護施設のそばに住んだり、近くを通ることを望まないだろう。」という意見もあった。一方で、ホームレスの人たちを追い出すようなことも望まない意見もあったのだ。
妥協点として生徒たちが見出した結論は、教会の近くにホームレス保護施設を移すというものであった。
なぜ、このような結論に至ったかと言うと、このグループは、まず「ミッション・ステートメント」(企業とその企業で働く従業員が、共有すべき価値観や行動に関する指針や方針を明文化したもの)づくりから始めたらしい。そのミッション・ステートメントでは、「誰一人として排除しない社会づくり」が重要なビジョンだったのだ。生徒たちは、様々な意見をたたかわせ、議論をしたようだが、最終的にはこのビジョンを実現する方法を考え出した。それが先にあげた結論だったのだ。見事ではないか。
何か問題が発生すると、その出来事の細部に目を奪われてしまい、対症療法的な解決策になってしまうことが多い。自分たちがいったい何を実現したかったのか、少し引いたところから眺めて、上位概念を見出し、それよって問題解決の糸口を見つけたいものだ。★3
★1 工藤勇一 (2019) 『麹町中学校の型破り校長-非常識な教え』SB新書.
★2 マーサ・セヴェットソン・ラッシュ (2020)『退屈な授業をぶっ飛ばせー学びに熱中する教室』[長崎政浩&吉田新一郎訳] 新評論 近日、刊行。ぜひ、ご一読を。
★3 学校が、上位概念による問題解決を図るには、学校としてのビジョンの存在が不可欠だろう。ビジョンは、リーダーとして校長が示すこともできるが、教職員との共同作業で、学校のビジョンづくりをすることもできる。吉田新一郎(2005)『校長先生という仕事』(平凡社新書)にその手順や考え方が紹介されているの参考にしてほしい。
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