2019年10月13日日曜日

エビデンスをいかした優れた授業づくりの6つの質問

教育に効果的なエビデンス★を、授業実践にいかしていくにはどうしたらよいのでしょうか? 

自分の教え方を振り返るとき、エビデンスは最も効果的に働きます。その際、単なるリフレクションではなく「うまくいっているものを維持するため、低い効果を高めるため、どのように変える必要があるのか?」と、指導に関するエビデンスに基づいた批判的なリフレクションに活用すべきです。

エビデンスは自分の教え方の影響を、統合的に理解するための道具として利用できます。しかし、いざ授業をエビデンスと照らし合わせて振り返るとき「このエビデンスは自分の実践効果の実証に都合が良さそうだ」と都合のよい解釈をしたり、印籠のごとく「エビデンスでは効果が高いはずである」と理解し、学習成果がでないことを学習者の責任にしてしまう危険性があります。また、昨年もこのとおりやったのでと、自分の経験を拠り所にしてしまう、思い込みも生まれてしまいます。理論が教授行為を決定するといった思い込みや、自分の指導効果に都合のいい性急な結論づけを避けなければなりません。

エビデンスは量的研究の効果的な平均値でしかありません。独自の条件や変数、独自の解釈を考慮し、教師自身が、その教え方の効果の評価者になる必要があります。

「効果の大きさだけを考慮するのではなく、効果量としてどういったものがありうるかや、各々の効果量がどういった因果でもたらされるのかを詳細に検討し、効果量の違いを総合的に検討した上で意思決定を行っていく必要がある。」(ジョン・ハッティ著『学習の効果』P.38

ある指導方法がうまくいっているのはなぜなのでしょうか? また、効果のあるとする指導方法から恩恵をうけていないのはどうしてなのでしょうか? 私たち教師には、エビデンスを振り返りの視点とし、お互いの指導についてリフレクションが必要です。自分の考えや知識に誤りがないかを気にかけることです。そのため、エビデンスを、授業の振り返りポイントとして、同僚と議論をしはじめるために活用することです。そこで、教師のもっている学習者への期待や思い込みを生徒の視点でふりかえり、議論し、修正し、検討の対象としていきます。

その前提には、思いやりの雰囲気があり、互いに助け合う教師間の職員室(激辛カレーをつけたとしても、新人の指導力はあがりませんから)、間違いに対する寛容さや他の視点から学び合おうとする同僚性が求められます。

都合よくエビデンスを利用することでもなく、リフレクションするための視点としてエビデンスを利用するのです。そして、エビデンスをさらに批判的に考え、理論をよりよいものに磨いていくのが教師の役割でもあります。

以下に挙げる、優れた教育を行うための6指針をもとに、リフレクションの視点として、話し合ってみるのはどうでしょうか?

「教師は影響者」
あなたは、学習者の学びに最も強い影響を与えていることを理解していますか? 
※教師は、学習者の学びが深まることも、そうはならないことの影響も与えています。つまり、教師が自分の影響を知り、自分の教え方をよりよく変えようとし、成長することによって、学習者の学びそのものを今よりもっとよりよくしていく希望がここに埋め込まれています。

2「熟達した教師」
あなたは、適切な指示や説明をしたり、一人ひとりへの配慮や思いやりを持ち、自分が教えることへ情熱をもって取り組んでいますか? 

3「授業」
あなたは、学習者一人ひとりがもつ考えや知識を知ろうとし、学級全体の傾向を理解していますか? そして、学習者の知っていることや理解していることを使い、ただ教えるだけではなく、学習者自身が気付いて知識をつくりだす授業をしていますか? 

4「フィードバック」
あなたは、「どこに向かうか」学習目標を明確にし、それらを達成させるため「どのように向かうか」の教授方法をもち、「次へのステップはどこか」の明確な評価基準を持っていますか? あなたが教えるカリキュラムを通して一人ひとりが成長するため、フィードバックしていますか?

5「理解」
あなたは、学習者の学びが浅い理解(計算技能や暗記するだけの知識など)から深い理解(問題解決や批判的思考といった考え方など)へと深まるように促していますか? また、さらに学習者自身が考え、気づき、学んだことを応用、発展させて、知識を自分でつくったりつくりなおしたりするようにしていますか?
6「雰囲気」
管理職やあなたは、間違うことや誤った考えや意見を学習の機会として歓迎し、誰もが安心して学び、学び直せる雰囲気を職場、教室につくっていますか?

(この6つの視点は日本の学校現場で使いやすいように、ブログ筆者が編集しました。邦訳原文は以下に挙げておきます。エビデンスを活用した授業づくりの視点を押さえ、自分たちの職場で扱いやすいようによりよいものつくりなおして使ってみてください。その過程そのものが、議論、ふりかえりを呼び起こし、学びとなるはずです。よりよいまとめができましたら、ぜひお知らせください。★★)



    医療の世界で言われ始め「Evidence Based Medicine :EBM」という言葉があります(名郷1999)。EBMとは、科学的に証明された根拠に、基づいて医療行為を行うこと。昨今のビジネス界では「客観的根拠」「科学的実証」として利用されていますが、教育界では定説の定義はまだはっきりしていないのが現状のようです。

★★
優れた教育を行うための6つの指針(ジョン・ハッティ著『教育の効果』P.254P.255):
    教師は、学習に対して最も強い影響を及ぼすものの一つである。
② 教師は、ときに指示的で、またあるときは影響力と思いやりをもち、指導や学習に情熱を傾けて積極的に取り組む必要がある。
③ 教師は、個々の学習者の見方や考え方、知識に配慮すると同時に、学習者集団全体の傾向に配慮しなければならない。そして、これらの状況をふまえて、学習者が意味そのものや意味のある経験を構築できるようにしなければならない。個々の学習者が教育課程全体を通して能力を伸ばせるように、教師は意味のある適切なフィードバックを与えられるような熟練した知識と考え方を有していなければならない。
④ 教師は、学習の目標と達成基準、できるだけ多くの学習者に基準に到達させるための方法、そして到達目標とそれに対する学習者の到達状況との差を埋めるために何をすべきか、といったことを理解していなければならない。言い換えると、「どこに向かうべきか」「どのように向かうべきか」「次なる段階はどこか」といった評価基準をもちあわせていなければならない。
⑤ 教師は、学習者に提示する考え方を、一面的なものから次第に多面的なものにするように努め、これらを関連した思考を促し、さらに考え方を拡げるように仕向け、学習者が知識や考え方を構築、あるいは再構築できるようにしなければならない。学習者に知識や考え方を与えるのではなく、学習者自身が知識や考え方を構築することが重要なのである。
⑥ 学校の管理職や教師は、次のような学校や職員室、教室の雰囲気を醸成する必要がある。すなわち、間違いが学習の機会として歓迎されたり、放棄されるべき誤った知識や理解も歓迎されたり、その場にいる人々が安心して学び、学び直し、知識や理解力を身につけようとすることができる雰囲気である。


0 件のコメント:

コメントを投稿