ふしぎだと思うこと これが科学の芽です
よく観察してたしかめ そして考えること これが科学の茎です
そうして最後になぞがとける これが科学の花です
この本は、理科教育における「骨太の研究」を目指してきた小林氏が、氏の教え子である学校現場の教師たちと協同して創り上げたものです。理論編と実践編、漫画編の3部構成で、B5版サイズで420ページ余りもの読み応えのある正に骨太の本です。
この本で紹介されている「探究する資質・能力を育むための具体的なアプローチ・手立て」は、次の6つです。
■自然と触れ合う「原体験」(理論編:第2章、第3章)
■仮説を立てる力を育む指導方略“The Four Question Strategy(4QS)”とこれを生かした仮説設定シート(理論編:第4章、第5章、第9章、第14章,実践編:第3章、第4章、第5章、第6章、第8章)
■日本版プロセス・スキルズ「探究の技能」(理論編:第7章、第13章)
■観察と実験の「問い」の立て方(理論編:第8章)
■小学校中学年(3・4年生)の子供を対象とした仮説を立てる力を育む指導方略“The Two Question Strategy(2QS)”とこれを生かした仮説設定シート(理論編:第10章,実践編:第1章)
■探究の過程の8の字型モデル(理論編:第11章,実践編:第2章、第4章、第6章)
それぞれの実践的研究や研究的実践についての詳細は、本を読んでいただきたいと思います。どれも理科における探究学習を進めていくうえで役に立つと思いますが、これらの中から、ここでは「4QS(フォークス)仮説設定シート」と「探究の過程の8の字型モデル」について紹介します。
◆【4QS仮説設定シート】〈図1〉
4QS仮説設定シートは、STEP1からSTEP4の4段階の「問い」で構成されています。
STEP1では、変化する事象から従属変数を同定して簡潔に記述します。STEP2では、従属変数に影響を及ぼすと考えられる要因、独立変数を挙げます。STEP3では、STEP2で挙げた独立変数を実験条件としてどのように変化させるのかを考えて、それを記入します。STEP4では、STEP1で挙げた従属変数をどのように測定したり数量として表したりするのかについて、その手立てを考えて記入します。そして、最後にSTEP3とSTEP4とを関係づけて一つの文にすると、「・・・すれば、・・・は、・・・になる」というように、どのように条件を変えると、結果がどのようになるのかを見通した「作業仮説」を設定することができるのです(理論編48~49ページ)。★★
4QS仮説設定シートの具体的な事例もいくつも紹介されていて、シートの活用の仕方が理解しやすくなっています。以下は、小学校5年の単元「電流のはたらき」における小学生による記入例です(256ページ)。4つのSTEPを経て、作業仮説を立てるプロセスがよくわかります。
【記入例】〈図11〉
これまで理科における探究の過程(問題解決の課程)は、「自然現象へのはたらきかけ」→「問題の把握・設定」→「予想・仮説の設定」→「検証計画の立案」→「観察・実験」→「結果の整理」→「考察」→「結論の導出」というような直線的なモデルが多く使われていました。小林氏らは、観察と実験との探究の過程の違いに注目し、実際の学校での観察・実験を中心とした理科学習に合った「探究の過程の8の字型モデル」を開発・作成したのです。図に示されているように探究の過程を、「観察による問題解決」のサイクルと「実験による問題解決」のサイクルの2つのサイクルに分けて表現してあるところがこのモデルの特徴です。★★★ このモデルは、理科だけでなく、社会科の課題研究や問題解決学習、総合的な学習の時間などでも使えるものです。
この本の実践編では、特に、探究学習によって仮説を設定する力や実験計画を立てる力、分析・考察する力など子どもたちの資質・能力や理解度、学習意欲がどのように変容するのかを調べる・分析する方法論も具体的に紹介されていて、小中学校・高校の先生が学校現場で探究学習の研究的実践を進めていくうえでとても役に立つと思います。子どもの変容を探る方法論については、どの教科でも、道徳や特別活動、総合的な学習の時間でも活用できるものです。
そのほか、アメリカ科学振興協会(American Association for
the Advancement of Science;AAAS)が開発した初等理科コースのカリキュラム“Science-A Process Approach”(SAPA)の教師用解説書で示された13のプロセス・スキルズとそれぞれの下位目標群を参考にしながら小林氏が開発・作成した日本版プロセス・スキルズ「探究の技能」について詳しく紹介されています(理論編65~84ページ)。これは、子どもたちと共に探究学習を進めていくうえで極めて重要な「ルーブリック」として活用できるもので、この本には探究学習を実践していくために必要なものが数多く詰まっています。
ただこの本を読んで物足りなさを感じたのは、具体的な「問い」の立て方についてです。理論編の第8章(85~97ページ)で解説されているのですが、実践への応用として今一つよく理解できませんでした。その原因が、この本では理科の教科書に載っている観察・実験を基にして「問い」の立て方を考えているところにありました。学習者である子どもたち一人一人の「不思議に感じたこと」「疑問に思ったこと」「もっと調べてみたいこと」など子ども自身の疑問や興味・関心から「問い」を立てることは、探究の過程の中で最も重要なプロセスの一つです。
この「問い」の立て方に関して参考になるのは、『たった一つを変えるだけ~クラスも教師も自立する「質問づくり」』[新評論]です。教師による「発問」ではなく、学習の主体者である子どもたち一人一人の「疑問」や「調べたいこと」が、本物の探究学習の出発点なのですから。
★ 小林辰至氏は、神戸市で中学校の理科の教師として15年ほど学校現場で理科教育に関する実践・研究をされた方で、平成4年に大学に移り、現職の先生方と共に理科における探究学習について実践的研究や研究的実践を25年以上された方です。理論編は全部で15章からなり、実践編は8章から構成されています。
★★ 4QS仮説設定シートは、実験での作業解説を設定するのに適しています。しかし、小学生、特に小学校中学年(3・4年生)の子供たちには4QSの活用はむずかしく、中学年の子供たちにも作業仮説を設定しやすくするために4QSを簡略化した「2QS仮説設定シート」を小林氏らは開発しました(112~113ページ)
★★★ この8の字型モデルは、日高敏隆(著)『新編 チョウはなぜ飛ぶか』[朝日出版社]の12ぺージに記載されている観察から生じた疑問から「説明仮説」を発案し、それをさらに「作業仮説」に作り替えて、実験で探究(問題解決)する場面からヒントを得て小林氏らが作成したものす(理論編59ページ)。
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