今から8年ほど前、平成20年度から文科省の「学校支援地域本部事業」がスタートしました。事業の主な目的は、「多様な教育機会やきめ細やかな教育の実現、教員の負担軽減による子どもと向き合う時間の確保、地域住民の知識や経験を生かす場の拡充」でした。
そして、教師の多忙化を少しでも解消し、子どもたちの豊かな学びを実現するために、「地域コーディネーター」あるいは「地域教育コーディネーター」と呼ばれる人たちが、学校に配置されたのです。★★
「コーディネーター」の人たちの役割は、その名前のとおり、学校・先生たちや子どもたちのニーズに応じて、学校内外の様々な人材をコーディネートしてくれるというものです。私が勤務した中学校では、以下のようなコーディネーションが行われていました。
■地域の教育資源・人材を生かした「わくわく授業(特別授業)」を実施するための連絡・調整★★★
■キャリア教育の一環として行う中学生の「職業体験学習」や「職業人・プロとのトークセッション」などに協力していただく企業や事業所、商店、幼稚園・保育所などの開拓と実施に向けての連絡・調整
■「図書ボランティア」の人材発掘・確保(図書室の本の整理だけでなく、子どもたちが図書室に行って本を読みたくなるような環境づくり、図書委員会の子どもたちとの連携・協同によるポップづくりと新着図書の展示会の開催、各教科の学習内容と関係の深い本を廊下などに配架、本の読み語りなど)
■「学習支援ボランティア」の人材発掘・確保(数学のティームティーチングや放課後の「補習」での個別指導)
■校庭の樹木の剪定や花壇づくりを行うための人材発掘・確保
これらは、「学校支援地域本部」が設置され「地域教育コーディネーター」が配置される前までは、教師や管理職がコーディネーターの役割を担っていました。その意味では、教師にとってはものすごい負担の軽減になりました。正に、コーディネーターは、学校・教師にとって、強力な「応援団」「助っ人」とも呼べるものです。
しかし、本質的な問題点もありました。それが、地域の教育資源・人材を生かした教科における「わくわく授業(特別授業)」の中にあったのです。
理科では、「ゲスト・ティーチャー」として、地元にある理科系の大学の教員や企業の研究所の研究員、博物館・科学館の学芸員、高等学校の理科の教員、昆虫や植物の生態に詳しく「自然観察指導員」の資格をもっている地域在住の方などに学校に来てもらいました。
企業の研究員による「パイナップル果汁に含まれる酵素のはたらきを調べる実験」、高校の生物の教員による「ほおの内側の粘膜細胞からDNAを抽出する実験」、大学の教員による「燃料電池の実験」や「液体窒素による物質の状態変化と超電導の実験」など、中学校の教員だけでは実施が難しい「発展的な内容」の学習が多く行われてきました。
それぞれが、中学校の理科の教科担任からのニーズに応じたもので、単元の学習指導計画に年度初めに位置づけて実施しました。決して、ゲスト・ティーチャーへの「丸投げ」にならないよう、教科担任のニーズを基にして「コーディネーター」が連絡・調整をしました。
どの授業も中学生にとっては、理科に対する興味・関心を高める内容であり、正に「わくわく授業」であったと思います。また、「わくわく授業」の実施のプロセスが、教師にとっての学び(「教材研究」)を深める機能も果たしていました。さらに、学校と地域の人材との連携促進、つまり「学びのネットワークづくり」にもつながりました。
しかし、そのほとんどが、単発のイベント的な学習に過ぎないのです。単元の学習を通して、子どもたちの中から湧き上がってきた「疑問」や「もっと調べたいこと」、すなわち子どもの素朴な「問い」に基づいた主体的で発展的な「探究学習」ではないのです。
つまり、どのような授業を行ううえでも、教師は、「学びの原則」★★★★を踏まえた「学びのデザイナー」としての役割、すなわち「カリキュラム開発」を行うことが必要なのです。そのカリキュラムに「わくわく授業」が位置づけられていたかが、問題だったのです(教科書会社が作成した「単元指導計画」に位置づけるのではなく)。
次の機会に、この問題点をどのように解決・克服したか紹介します。
★ 今回の内容は、次の機会に、「教師の本来の役割」を見直すための前段的な位置づけです。
★★ 「地域教育コーディネーター」の多くは、PTAの本部役員経験者や保護者です。
★★★ 理科を中心に、国語、社会、数学、英語、音楽、美術、家庭科など、ほとんどすべての教科で実施されました。教科書にはない発展的な内容を扱う「特別授業」が多く行われています。
★★★★ 吉田新一郎・岩瀬直樹『効果10倍の学びの技法』pp.99~102[PHP新書],http://projectbetterschool.blogspot.jp/2012/03/plc_18.html
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