2016年9月4日日曜日

校長のサーバント・リーダーシップと授業改善


学校組織に関する研究によれば、校長のリーダーシップ(リーダーとしての行動)が、教職員のやる気・モチベーションを高めたり、授業改善を促進したりするということが、かなり以前から明らかになっています。 

直感的に考えれば、これは、当然のことと思われることですが、それを校長や教師、保護者、児童生徒に対する質問紙調査(量的研究)やインタビュー調査(質的研究)などによって、明らかにしようとする実証的な研究が、国内外で行われています。 

露口(2012によれば、校長のサーバント・リーダーシップ(校長の児童生徒・保護者・教職員に対する奉仕・貢献志向のリーダーとしての行動)が、校内の教師同士・教育の専門家による学習共同体(professional learning community:以下PLC)の形成と機能を促進し、そのPLCを媒介として(PLCでの様々な活動や教師同士のコミュニケーションなどによる相互作用を通して)、教師個々の授業改善が図られるというのです。 

もちろん、このことは、既に『「学び」で組織は成長する』(吉田新一郎)の第5章「学びのリーダーに求められること」や『校長先生という仕事』(同上)の中で、具体的な事例や方法論と共に述べられていることです。

 露口の調査研究で得られたこと(影響関係)を単純化して図示すると、次のとおりです。

校長のサーバント・リーダーシップは、以下の10個の要素に分けられます。★★

1 傾聴:人の話をしっかりと聴く。

2 共感:人の気持ちを理解し、共感する。

3 安心感:学校における精神的・情緒的な問題を解決・克服する。

4 気づき:自分自身と所属組織・学校を正確に理解する。

5 説得:職務権限や強制力を使用しないで、人を納得させる。

6 概念化:希望の見えるビジョンを示す。

7 先見性:未来を予測する。

8 貢献の美徳:個人または学校組織による社会貢献の価値を説く。

9 成長への関与:教職員と児童生徒の成長を支援する。

10  コミュニティの創造:学校組織における共同体意識を創造する。 

 「傾聴」と「共感」、は、教職員や児童生徒、保護者との「信頼関係」をつくるうえで、最も重要なものです。また、「安心感」のある学校、すなわち教職員や子どもたちが安心して学校生活を送れるということは、学校における学びを豊かにするための基本・土台です。 

自分たちの学校の「現在地」を明らかにし、目指すべき「目的地」を教職員・児童生徒・保護者と共有し、現在地から目的地への「移行手段」を、教職員を中心として、児童生徒・保護者とも協同して創出するためには、上記の「傾聴」「共感」と併せて「気づき」「説得」「概念化」「先見性」は、学校のリーダーとして必要な能力です。 

成長への関与」は、子どもたちの成長・発達促進という学校の使命から考えれば、当たり前のことです。ここでのポイントは、授業や学校行事などを通して、子どもたちの成長に直接かかわる「教師の成長を支援すること」だと思います。 

そして、「貢献の美徳」と「コミュニティの創造」が、学びの共同体PLCの形成・活性化を促進するうえで、極めて重要です。 

人は、お互いに困っている人を助け合ったり、支援したり【他者貢献・利他・相互支援】、新たなカリキュラムを開発したり、子どもたちの学びを促進するためのアクションリサーチを行うなど、何かを力を合わせて一緒に創り出したりすること【連携・協同】を通して、「同僚性」や「共同体感覚」が生まれてくるからです。 

校長という存在は、良い意味でも悪い意味でも、教職員や子どもたち、そして保護者に対する「影響力」をもっています。「校長のサーバント・リーダーシップ」の10個の要素が、互いに学び合う学校をつくるという目的地に向かって、校長自身が良い影響力を及ぼすための手がかりの一つになると思います。 

PLCの形成と機能の活性化を促進するための具体的な手立てについては、『「学び」で組織は成長する』や『校長先生という仕事』のパート3「学校改革の担い手としての校長先生の仕事」に書かれていることが、とても参考になり実際に役に立ちます。 

 露口健司(2012)『学校組織の信頼』大学教育出版, 特に、第9章「授業力を高める組織とリーダーシップ」及び第10章「授業改善のためのリーダーシップ実践」 

★★ 小島弘道・淵上克義・露口健司(2010)『スクールリーダーシップ』学文社,150-153,原典:SpearsL.C.1998Insights of leadershipServicestewardshipspirit and servant-leadership NYJohn Wiley & Sons

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