今回は『算数・数学はアートだ』(ポール・ロックハート/新評論)を取り上げます。
第3章「学校の算数・数学」には、次のような記述があります。
学力テストの教科に加えるということであれば、教育体制がその教科の生気を吸い取る、つまり活力を失わせることを実質的に保証したことになります。(38頁)
ここだけを読むと、多くの教師がびっくりするかもしれません。当たり前に、学力テストを行っている現状からすると、「何?」という感じです。でも、よく考えてみれば、「算数・数学」に限らず、学力テストの対象になっている教科をつまらないものにしているのは、まさに「学力テスト」を含む教育体制そのものだということに行き当たります。
著者はさらにこう続けます。
数学は理性の音楽です。「数学をする」ということは、①発見と予想、直観とひらめきなどの行為をすることであり、②(まったく何が何だか分からないからではなくて、あなた自身が意味を与えたにもかかわらず、最終的に何をつくり出すのかまだ分かっていないので)混乱のなかに身を置くことであり、③画期的な考えを思いついたり、④アーティストとしてくじけたり、挫折したり、失望したり、⑤痛々しいほどの美しさに畏敬の念を起こさせたり、圧倒されたり、そして⑥生き生きと意味のある形で学べること、です。(40頁)
このなかの②にある「混乱のなかに身を置く」ことは自分自身でも経験したことであり、何日も同じ問題を考え続けたことが今思うと数学の楽しさだったように思います。数学それ自身ですでに面白いものであり、「算数・数学」を面白くするために行われている「改革の動き」は悲しいものだと著者は述べています。
数学がつまらないのは、日常生活との関連性が見えないからだという意見がありますが、著者は「日常生活との関連のなさが数学の栄光」「日々の生活における気晴らし」とも述べています。確かに、面白くせよと言われると「日常生活との関連」を考えがちですが、それ自体が面白いものであれば、その面白さが前面に出てくるような学習内容を用意しなければなりせん。
ところが、現実の数学の教科書は、定理・公式の類の解説と、その練習問題の羅列です。
わざわざ算数・数学嫌いを生み出しているというわけです。
そうではなくて、数学の面白さ、本質的な部分の問題を取り扱えば、子供たちは嬉々として算数・数学に取り組むことができるということです。この指摘は重要です。
また、最後の「訳者あとがき」でも特に「その3 算数・数学が直面している少人数指導という誤った教え方」は多くの先生方に読んでいただきたいところです。少人数指導で「良いことをしている」と思い込んでいる議員や教育長がいるのは困ったものだという指摘がありますが、まさにその通りです。このようなことを続けていたら、わが国の教育は世界のトップランナーどころか、間違いなく周回遅れです。
この本に続いて、『Thinking Mathematically(数学的に思考する)』が翻訳されるようですので、期待したい思います。
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