2016年5月8日日曜日

「教え方のプロによる1週間の訪問指導」という教員研修


で、「1週間のresidency」というアプローチがあることを紹介しました。

そもそもは、「アーティスト・イン・レジデンス」★から来ています。この言葉で検索すると、その由来と日本での現時点でのやられ方がわかります。しかし、私が言っているのはそれの学校バージョンです。欧米の学校では、図工・美術、音楽等が正規の時間割に含まれていないところが少なくなく(従って、それらの専科の先生もいない場合があり)、それをカバーするためにプロの画家、音楽家、ダンサー等を短期間(たとえば、1週間とか2週間とか)招いて教えてもらうというプログラムが数十年前から存在するのです。

おそらく、RW便りで紹介した「1週間のresidency」=読み・書きの教え方のプロによる1週間の訪問指導は、そういう長年の他教科での実践も踏まえて考えられたのだと思います。気になったので、調べたことを紹介します。

Regie Routman(レジー・ルートマン)さんの場合は、それだけでなく以下のようなことも踏まえて自分の1週間のレジデンシー(滞在)プログラムを開発したというのです。

・彼女自身の過去40年を超える読み・書きの領域での実践の蓄積(かなりの量の本も書いています!)
・読み・書きの過去50年間の研究と実践の蓄積 ~ それらのエキスを、RW便りで紹介し続けています。
・最適な学びの条件について理解★★。具体的には、
     本物であること=意味のある学び(これだと楽しめますし、身につきます) ~ 逆に、子どもたちは「学校ごっこ」はすぐに見抜いてしまいます!
     自立的な学び手を育てるための教え方 ~ 子どもたちが「自分のもの」と思えることの大切さ。と同時に、教師がモデルを見せるところから、サポートして自立するところまでをステップを踏んで伴走することの大切さ。  (ここに興味のある方は、『「読む力」はこうしてつける』の65~68ページを参照してください。)
     モチベーションとエンゲイジメント ~ これら2つのキーワードもこのブログで扱ってきました。これらは子どもたちの学び(出来・不出来)に直結する重要な要素です。
     成功が約束されている授業の枠組み ~ たとえば読み・書き教育の例としては、RW便りで紹介しているリーディング・ワークショップやライティング・ワークショップです。
     教室で使われている言葉 ~ 教師が、そして子どもたち同士が日々使っている言葉は、何をどう学ぶかだけでなく、関係性も規定します。★★★
・教員研修についての理解 ~ これは、日本においては残念ながら止まった状態が続いています! 研修が停滞していますから、必然的に授業も停滞しています。
     Professional Learning Community=プロの教師として学び続けるコミュニティ(PLC)のあり方 ~ アメリカを中心に過去20年ぐらいの実践と蓄積があります。それに刺激を受けて、このブログをスタートさせました。教師が互いにサポートしあって成長していないのに、子どもたちの学びや成長を実現するのはかなり困難なことですから。
     よりよい学びを可能にする教え方を常に模索し続けるリーダーとしての校長 ~ これは学校改革を常に推し進める校長と同義で、上記のPLCのリーダーでもあります。これをテーマにして書いたのが『校長先生という仕事』でした。
     コーチング ~ このブログでも何回か紹介してきたNHKの人気番組「奇跡のレッスン~世界の最強コーチと子どもたち」と似ているところがあります。
・評価と指導の一体化(=学びを促進するための評価)に関する過去20年ぐらいの実績 ~ 日本もかけ声だけはありますが、実態が伴っているとは残念ながら言えません。これをテーマにして書いた本が『テストだけでは測れない!』でした。

 ということで、どういうふうにすれば、教師の実践が改善されていくかということをしっかり考えた上で、行われているのがこの1週間のレジデンシーということになります。それは、「奇跡のレッスン~世界の最強コーチと子どもたち」を見ても、インパクトの大きさは分かると思います。単に対象が子どもたちではなくて、教師たちに置き換えられただけです。
 しかも、二度と会わないという関係ではなく、フォローアップがありますし、2~3年の単位で取り組むところがほとんどです。1週間で変われるとは誰も思っていないので。そして、年間を通して(毎週)教師同士が互いにサポートし合う関係まで構築されます。
 要するには、しっかり教師の実践を変えるためには何をどうしたらいいのかを練った上でのプログラムと言えます。
 これと比較すると、日本で行われている学校レベルの各種研修・研究や教育委員会や教育センター主催の研修(さらには、大学や大学院等で行われている免許更新制関連の研修や内地留学等も)は、ほとんど最初から授業実践を変えることを目標に設定にしているとは言えないことが明確になってしまいます。いったい何を目標に設定しているのでしょうか?


★ アーティストよりも、広く知られているのはお医者さんたち(の卵)のresidencyです。しかし、この場合は研修医と称して、本物の医者になる前段としてのトレーニングのことを意味します。「インターン」と同じです。従って、ここで扱っているテーマとは異なります。
★★ 健全な教育実践を行うために私たちがすでに知っていることと実際にしていることのギャップがどれだけあるのかを示した表が最近出た『算数・数学はアートだ!』の182ページで紹介されているので参照ください。

1 件のコメント:

  1. ★★★ 以上はすべて、子ども対象に言えるだけでなく、大人を対象にしたときも言えてしまいます。

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