怒濤の新学期が始まり、ちょうど一週間が過ぎた頃ですね。多くの先生方が、少しずつ疲れを感じ始めている時期ではないでしょうか。僕もまったく同じです。学期の初めは、学級のルールを決めたり、子どもたち同士の関係づくりを進めたり、とても密度の濃い時間が続きます。その分、子どもたちとの関わりに、たくさんのエネルギーを使ってこられたことと思います。
学校生活はこれから一年間続いていきます。最初の頑張りをそのまま保ち続けるのは、なかなか難しいもの。だからこそ、この時期に大切にしたいのは、無理を重ねることではなく、日々の授業を少しずつ豊かにしていくことです。毎日の積み重ねの中で、子どもたちの学びが深まっていくような土台をつくっていきたいところ。
その土台として欠かせないのが、「ききあう」という営みです。子どもたち同士が互いの考えに耳を傾け、受け取り、言葉を返していく。そのやりとりの積み重ねが、関係を育て、学びをより深いものにしていきます。教室の安定や成長は、こうした日々の小さな関わりの中から生まれてくるのだと思うのです。
子ども同士の対話を考えるとき、東京大学准教授の一柳智紀さんから学んだ「発表的会話」と「探索的会話」という二つの見方が参考になります★。発表的会話は、考えを整理して分かりやすく伝えるやりとりです。まずは、よくある「教える/教わる」関係になりやすい例を見てみましょう
Aさん「この計算、よくわからないんだけど…(25+17を示しながら)」
Bさん「25と17を足すだけだよ。まず5と7で12になるでしょ。そして、2を書いて1をくり上げる。簡単じゃん!」
Aさん「うん…」
Bさん「次に2と1と1で4になるから答えは42。こうやればできるはず」
Aさん「そう、そうなんだ…(じつはまだよくわからない)」
「できた人が説明する」という場面は、まさにこれにあたります。考えをまとめる力や伝える力を育てるうえでは、とても大切な時間です。ただ、このやりとりだけに偏ってしまうと、「正しい答えを発表する場」になりやすく、考えの途中にいる子どもたちの思考が表に出にくくなってしまいます。
それに対して、探索的会話は、まだまとまりきっていない考えを出し合いながら、少しずつ理解をつくっていくやりとりです。
Aさん「この計算、よくわからないんだけど…(25+17を示しながら)」
Bさん「じゃあ、一緒に考えよう。25と17を足すんだよね。まず、どこからたすんだっけ…?」
Aさん「うーん、5+7から? だから12、かな」
Bさん「うんうん、12だね。5と7で12。それで、次にどうするんだっけ?」
Aさん「2を答えに書くでしょ。繰り上がりどうするんだっけ?」
Bさん「うーんと、1をくり上げるんだったよね。で、残りは十の位の2と1と…」
Aさん「くり上がりがあるから、2+1+1で、4になるの?」
Bさん「そうそう!そうだね。4になる。だから…答えは…」
Aさん「あぁ!42だ。自分でも少しわかってきた!」
「うーん、こうかな」「ちょっと違うかも」といった迷いや試行錯誤を含んだ言葉が行き交います。結論を急ぐのではなく、過程を共有しながら、一緒に考えをつくっていく時間です。子どもたちの思考が本当に動いているのは、こうした場面だと感じることが多いのではないでしょうか。
ここで一つ考えてみたいのが「良い聞き手」とは何かということです。たとえば、分からない問題に出会ったAさんに対して、Bさんが「じゃあ一緒に考えよう」と声をかけ、少しずつ考えを引き出していく場面があります。Bさんは答えを教えるのではなく、「次はどうするんだっけ?」と問いかけながら、Aさんの理解を支えています。
こうした姿を見ると「Bさんのような聞き方を育てたい」と思うのは自然なことです。しかし、ここで見落としてはいけないのは、そもそもAさんが「よく分からない」と言えていることです。この一言があるからこそ、対話が始まり、学びが動き出します。
もし、分からないことを言いにくい教室だったらどうでしょうか。
まちがいを避けたり、できているふりをしたりする中では、このようなやりとりは生まれません。だからこそ、本当に大切なのは「良い聴き手を育てること」だけではなく、「分からないと言っても大丈夫だと思える教室をつくること」です。
人とちがう考えでもいい。途中の考えでもいい。はっきり分からなくてもいい。そうした思いをそのまま出せる安心感があるとき、子どもたちは少しずつ言葉を出し始めます。そして、その声に応じて周りの子どもたちが関わることで、探索的に対話が自然と深まっていきます。
そのために、まずできることはとてもシンプルです。小さな声でもきちんと届く「(音として)聞く」教室をつくることです。静かにしてから話し始めるという基本を大切にし、一人ひとりの声を丁寧に受け止めていくこと。そして何より、教師自身が子どもたちの言葉を受け止めて「(受容的に)聴く」姿を見せていくことです。
新学期で忙しい日々が続く中ではありますが、授業づくりを考えるとき、こうした「ききあい」を少しずつ練習し、積み重ねていくことが、結果的に教室全体の学びを支えていきます。焦らず、一歩ずつ取り組んでいければと思います。教室の中に、あたたかな「ききあい」の文化が育っていくことを願っています。
★子ども同士の対話の質を問い直す「発表的会話」と「探索的会話」
https://projectbetterschool.blogspot.com/2025/09/blog-post_14.html
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