2025年11月23日日曜日

教師が辞めないために(そして、よりよい教師になるために)メンターの存在が大切!

教師が辞める理由は、はっきりした統計があるわけではありませんが、あまり高くない給与、限られたサポート、そして劣悪なワークライフバランスが、あると思われます。しかし、最近の教員不足の議論は、いかに多くの教師を「採用」するかに重点が置かれており、教育行政も、当然のことながら、いかに多くの教師をこの職業に就かせるかに注意を集中しがちである。しかし、雇った教師が数年で辞めてしまってはその政策も税金の無駄遣いになってしまいます。欠けているのは、生き生きと仕事をしてもらう環境や関係をどう作るか、優れた教師に長くいてもらう(「定着」してもらう)だけでなく、新人たちをサポートしてもらうにはどうしたらよいか、といった議論の方が費用対効果が見合っています!

 「教師不足」は、アメリカ等の他国でも長年抱えた課題です。そこで、中学校で教えながら、教育リーダーシップの博士号に取り組んでいるジェシカ・チャットマン先生の、新人教師の定着と教師間のいい関係の構築に寄与するだけでなく、授業を中心に教師の仕事を改善し続ける手段として、なぜ自分がメンタリングに情熱を注いでいるかについて書いた小論を紹介します。彼女は、自分がなぜ教職に留まり続けているのかを考えたとき、他の教師から受けたサポートほど強力なものはなかったと振り返っています。困難を乗り越える手助けをし、目的を思い出させてくれたのは、メンターと言える人たちの存在だったのです。

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気にかけてくれる人

初年度のあった特に困難な日のことを覚えています。同僚の先生との協力がうまくいかず、生徒の行動は手に負えなくなり、自分の授業も手応えがありませんでした。

放課後、一人で教室に座りながら、「自分には良い教師になる素質があるのだろうか」と考えていた時、廊下の向かいにいるベテラン教師の私のメンターが、特に用事もなく、ただ様子を見に立ち寄ってくれました。彼女は私の隣に座り、話を聞いてくれ、励ましの言葉をかけてくれました。そのささやかな行為、その人間的なつながりが、私に教師をし続けるために必要な安心感を与えてくれたのです。

しかし、問題はここです。すべてのメンタリングが同じように機能するわけではないということです。

だからこそ、次に問うべき質問は、「どのようなメンタリング・プログラムが効果的なのか?」です。これを探るため、私は数人の若手教師と話をしました。彼らは、貴重な視点を提供してくれました。(以下に紹介するのは、正式な調査結果の一部ではありませんが、彼らの振り返りを通して三つの大切な特徴が浮かび上がってきたので紹介します。

1. メンターとメンティーの間に共通する特性

一番目の特徴である「共通する特性」は、成功するメンタリング関係にとって極めて重要な基盤を築きます。二人の共通点は、学年や教科といったものかもしれませんが、人種、性別、あるいは教育に対する考え方といったより深い要素を含むこともあります。

ある特別支援教育の教師は、以前に同じ生徒層を扱っていたメンターが、授業計画、個別教育計画(IEP)の作成、そして生徒の行動管理などに関して、いかに意義あるヒントを提供してくれたかを語りました。

高校の数学教師は、二人のメンター(両者ともベテランの教師)がいたと話してくれました。彼女たちはカリキュラム設計やプロジェクト型学習だけでなく、保護者との連絡や学校文化といった、教員養成プログラムでは必ずしも扱われない仕事の側面を乗り切る方法も教えてくれたそうです。

また、幼児教育に携わる別の教師は、当初、メンタリングを自分の不十分さを示すものと見なし、抵抗していたことを認めました。しかし、早期学習についての彼女の核心的な信念を共有するメンターとつながって初めて、その価値を理解し始めました。そのメンターは、彼女が自信と能力を得るのに役立つツールや方法をいろいろ提供してくれました。

これらの話は、思慮深いメンターとメンティーの組み合わせの重要性を強調しています。あまりにも頻繁に、意図的ではなく無作為にペアが組まれてしまう★ため、意味のある影響を与える可能性が制限されてしまうのです。

2. 観察し、観察される機会

二つ目の特徴は、定期的にミーティングをもち、互いの実践を相互に観察する機会をもつことです。私が聞き取りをしたすべての教師が、メンターの授業を観察すること、そして自分自身が観察されることがいかに価値あることだったかを強調していました。本で新しい方法について読むのと、実際の教室で、実際の生徒を相手にそれが実行されるのを見るのとでは大違いです。

しかし、この種のサポートには、意図的なスケジューリングと、学校側がメンタリングを教員研修の重要な一部として優先するというコミットメントが必要です。ある教師は、放課後の自分の時間を定期的に犠牲にして、必ず自分と会う時間を確保してくれたメンターのことを話してくれました(これはメンターの献身を示すエピソードですが、常に期待できるものではありません)。

優れた管理職は、メンター制度のための時間を意図的に優先し、確保することが不可欠です★★。それにより、メンタリングが学校の勤務時間内に価値あるものとして認められ、支援されることを保証しなければなりません。授業について話し合ったり、困難な状況の振り返りをしたり、効果的な指導が実際に行われるのを見たりできることは、新任(や若い)教師が成長するために必要な手段と自信を与えます。

3. 初年度以降も続く継続的なサポート

三つ目の特徴は、メンタリングの継続性の大切さに焦点を当てていました。私は、メンタリングの専門家であるキャシー・クラムが示しているメンタリングの4段階の、特に最後の二段階である「分離」と「再定義」を思い出しました★★★。これらの段階では、メンターとメンティーは同じ建物や同じ教育委員会で働かなくなるかもしれませんが、関係は再定義されつつも、多くの場合、そのまま維持されます。

私が話を聞いたメンティーのほぼ全員が、指導、励まし、あるいは単に成功や課題を共有するために、今でもメンターと連絡を取っているそうです。私もまた、長年にわたり、公私両方で多くのメンターと連絡を取り続けています。持続的なメンタリングは、実務的な事柄を超えて生涯にわたるプロの教師としての成長へと続く絆を生み出します。こうした継続的な関係は、教師としてのキャリアの段階ごとに助言や激励が形を変えていく、 実践的な学びの場であり続けます。

より質の高いメンタリングが、より質の高いティーチングを生む

教育の分野に足を踏み入れることは、一つの到達点があるわけではなく、確かな準備と一貫したサポートを必要とする継続的な旅に出ることを意味します。教職の初年度を終えたからといって、教師がすべてを理解したわけではありません。むしろ、そこからが始まりです。毎年、 状況は新しく変わり、 考えさせられる問いも深まり、 さらなる成長を遂げます。メンタリングは、教師が役割に慣れ、成長していく中で、学びを続け、自信を深めることを可能にする足場を提供します。

メンタリングは、スキルの向上や実践的な知識をサポートするだけでなく、新しい教師が自分自身をどう捉えるかを形づくる上でも役立ちます。若手教師は、教育者として自分が何者なのか、つまり「どう教えるか」だけでなく「教育者としての自分自身」を模索している途中にあり、今まさに職業上のアイデンティティーを形成しているのです。

このプロセスを通して、新米教師を肯定し、挑戦させ、導くメンターは、永続的な影響を与えることができます。この関係は、新しい教師が、複雑で要求の多い仕事で、「自分は認められ、サポートされ、進化していくための力を備えている」と感じるのを助けます。

もし私が学校向けのメンタリング・プログラムを設計できる立場にいるなら、それは意図的であることと長期にわたることの両方を基盤とするでしょう。メンターは研修を受け、サポートされ、報酬が支払われるべきです。マッチングは、メンターとメンティー双方からの意見を取り入れ、思慮深く行われる必要があります。観察、協働作業、そして正直な会話のための確保された時間があるべきです。そして最も重要なのは、このプログラムを初年度で終わらせないことです。教師が新しい役割、新しい生徒、そして新しい課題に直面する翌年以降も継続されるべきです。

メンタリングを教師の選択肢として扱う余裕はありません。教師の離職を食い止めたいと本気で思うなら、 意義があり、ニーズに応え、長く続くメンタリングに資金と時間を投入する必要があります。私自身の話を含め、若手教師たちが共有してくれた物語は、人間関係、支え合う仲間、そして指導は、追加的なものではなく、本質的で必要不可欠なものであると強く訴えています。

 

出典・ https://www.ascd.org/blogs/the-role-of-mentorship-in-teacher-retention

★あまりにも多くの日本の指導教官と新任教師のペアがそうであるように!?

★★メンタリングに直接かかわるメンターとメンティーだけでなく、周囲の人(特に、管理職)の協力は大事! しかし、主役はあくまでもメンティーと、そのサポーターであるメンター(場合によっては、複数いることも)の極めて個人的なやり取りとそれから得られる学びや成長がメンタリングの核心です。

★★★4段階は、創始期(Initiation Stage)、育成期(Cultivation Stage)、分離(自立)期(Separation Stage)、再定義(見直し・再構築)期(Re-definition Stage)。 出典は、Phases of the Mentor Relationship, by Kathy E. Kram (Academy of Management Journal, Vol. 26, No. 4, Nov 30, 2017)

★★★★ 学校で学びを実現するための22の方法の一つとして、メンタリングのやり方を紹介している本に『「学び」で組織は成長する』(光文社新書)があります。

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