2025年7月20日日曜日

『“しない”が子どもの自力を伸ばす』を読んで

 本を読んだ高校の英語の先生Tさん(広島県)が感想を送ってくれたので紹介します。 

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教師として、生徒を「怒る」「叱る」ことは必要だと思っていました。たとえば、生徒が人を傷つけるようなことを言ったとき。何度注意しても授業中におしゃべりを続けるとき。課題や活動に真剣に取り組もうとしないとき。そういう場面では、毅然とした態度で厳しく対応するのが当然であり、場合によっては感情的に怒ったり、「教師も人間であり、傷ついたり腹を立てたりするのだ」と示したりすることが、教育として必要だとさえ思っていたのです。それも、つい最近まで。

しないが子どもの自力を伸ばす――叱らない・ほめない・コントロールしない、狩猟採集民の子育て術』(マイケリーン・ドゥクレフ著、築地書館)を読んで、私の考えは大きく揺さぶられました。この本には、イヌイットの大人たちがもつ「感情をコントロールする力」が詳しく記録されています。彼らは、どんなに子どもにイライラさせられる状況でも、決して怒鳴ったりせず、声を荒らげることもなく、穏やかに対応します。小さな子どもに理由もなく顔を引っ掻かれて、血が流れたとしても。子ども同士でふざけ合って、テーブルの上のコーヒーをひっくり返してしまっても。

「イヌイットは、小さな子どもに怒鳴ることを屈辱的だとみなしている、と年長者たちは私(著者ドゥクレフ氏)に話してくれました。大人が子どものレベルにまで身を落としている、つまり大人版の癇癪を起こしているのだ、と。」(185ページ)

これを読んだとき、私は恥ずかしくなりました。私は穏やかに話せば分かり合えるはずの、分別のある高校生に対してさえ、大きな声で叱責することがありました。それは単に「生徒をコントロールできない自分」に苛立ち、癇癪を起こしていたのだと気づいたのです。にもかかわらず、私は「教育の一環」として、「生徒の力を伸ばすため」にあえて叱っているのだと、自分にも周囲にも思い込ませていました。

それ以来、私は生徒に対して感情が湧き上がってきたとき、まず立ち止まるようにしています。「これから私が口にする言葉やとる行動は、何のためなのか? 生徒をコントロールするためか? それとも、生徒を励ますためか? どうやって伝えるのが一番効果的だろうか?」そう問いかけることで、頭ごなしにきつい口調で注意する代わりに、表情だけで「不適切な行動である」ことを伝えたり、必要なら「今、何をする時間かな?」とか、「あなたが○○できるようになるために、一緒に何ができるかな?」と声をかけられるようになってきました。それでも状況が変わらないなら、少し待ったり、距離を置いたりすればいいのです。生徒との関わりは、今この場で勝ち負けを決める闘いではないのですから。

教師が怒りで接すれば、生徒に怒りを学ばせてしまいます(191ページの図)。生徒の班活動でリーダーが班員を怒鳴っていたとしたら、それは怒りの学習がうまくいっているということ。まさにこの本が提示している「練習+モデル+承認=スキルの習得」という公式の通りです。私たち人間は、よいことも悪いことも、こうして学び、習慣にしていきます。だからこそ、私自身が穏やかに対応できる場面を一つでも多くつくることで、生徒たちも日々それを見て学び、穏やかさを身につけていってくれるはずだと信じています。

湧き上がってくる怒りを和らげるためのルールとして本書では三つのルールを紹介しています。「子どもたちが不適切な行動をとることを想定しておく」、「子どもとの言い争いをしない」、そして、もう一つが、本書で提案する普遍的な子育てアプローチ(TEAM子育て)の中核となる「コントロールせず子どもを励ます」です(204ページ)。

教師としての私は、次から次へと生徒に指示を出すことを自分の仕事だと勘違いしていたのかもしれません。つまり、いつも何かを強制していたということです。そのせいで生徒が怒りや不満をもち、反発を示す行動をとります。そして教師がさらにコントロールしようとし、敵対関係ができあがるのです。今こそ、この悪循環を断ち切るために「励ます」ことを学ぶ必要があります。本書を開くと、そのためのさまざまなツールを学ぶことができます。ぜひ、多くの先生たちに本書を読んでいただき、それぞれの日常で活かせるツールから実際に使ってみていただきたいと思います。

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