日本の教育界では、まだその威力がほとんど知られていないチェックリスト、およびそれを中心につくられる様々なプレイブックが欧米では、ここ5年ぐらいの間にたくさん出版されています★。普及の理由は、(使う側の立場での)使いやすさと、(つくる側の立場での)学びの多さが挙げられるかと思います。そして、強調すべきは、そのチェックリストは固定化されたものではなく、流動的なものであるということです。つまり、使う人の状況や場面によって臨機応変に修正を加えられるもの、ないし加えるべきものと捉えていることです。
このチェックリスト、医療界ではしばらく前から当たり前になっています。それも、日本を含めた全世界で。それは、アトゥール・ガワンデの『アナタはなぜチェックリストを使わないのか? 重大な局面で"正しい決断"をする方法』を読んだり、彼のTEDトークを見ることで明らかです(https://digitalcast.jp/v/13267/ で日本語字幕付きで、この動画が見られます)。「ハーバード大学の外科医である私が、多くの時間を費やしてチェックリストなどに頭を悩ませることになろうとは思いもしませんでした。しかし我々が発見したのは、それが専門家の能力を更に引き出すツールだということです(動画の13:50付近)」と彼自身が言っています。
『インストラクショナル・コーチング』(近刊、図書文化)のなかでは、この優れものであるチェックリストがどのように教育界でも使えるようにしているか詳しく紹介されています。少し長くなりますが、その該当箇所を下に引用します(翻訳書のページ数がまだ確定しないので、原書の151~3ページです)。
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ガワンデは世界保健機関と協力して、世界中の八つの病院で手術の際のチェックリストの効果を研究しました。調査は、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、イギリスの豊かな国々とタンザニア、ヨルダン、インド、フィリピンの貧しい国々の病院で実施されました。結果は、驚くべきものでした。手術チームがチェックリストを使った場合、すべての病院で合併症発生率が平均で35%低下し、死亡率は47%も低下したのです。この結果を主な要因として、チェックリストは世界中の病院で効果的なケアを行うための必需品と位置づけられています。もしあなたが最近病院を訪れたなら、たぶんあなたは誰かがチェックリストを使っているのを見ることでしょう。
手術室と同じように、私たちは教室でもチェックリストが重要であることを発見しました。チェックリストは、コーチが教師にどのように抽象的な概念を具体的な行動に移せるのかを示す助けになります。教え方に関するやりとりが抽象的/一般的過ぎるとき、教師は話し合われていることを実践に移すのに苦労します。たとえば、私たちは授業でより高次の思考★★を見たいと言いますが、それを実現するための具体的な方法についてははっきりさせない場合があります。一般的なレベルの話し合いは助けになりますし、概念を探究する機会も提供してくれますが、それだけで本当の変化がもたらされることはありません。私たちがインタビューをしたコーチたちは、チェックリストがあることで、コーチの働きかけがより具体的になり、効果を上げるのを助けていると声をそろえて言っています。
テキサス州のあるコーチは言います。「チェックリストをつくり出すことは、自分自身の能力を高めます。つくる過程では教師にくだらないものを提供しないよう常に自身を戒めているのです。自分自身に対して高いレベルの思考力と根気を課すことで、教師にも同じものが提供できますし、それが最終的に生徒たちにも提供されることになります」
プレイブックのためのチェックリストをつくろうとする時、コーチはどのような教え方が役立つのかを深く考え、それを簡潔かつ明快に説明する必要があります。チェックリストをつくり出すことの最も重要な理由の一つは、まさに、それをつくり出す過程で得られる深い理解の経験にあると言えます。コーチが個々の方法についてよりよい理解がもてたら、彼らの説明はより明快になり、教師による実践はより強力になり、生徒の学びの利益になります。
チェックリストはまた、とてもよいコミュニケーションの媒体でもあります。チェックリストはコーチのものでも教師のものでもないので、コーチがどのように教えるべきかを伝えるときよりも、チェックリストを介して教え方を話し合うことは、両者がはるかに協力関係を感じることができます。チェックリストの各項目は、コーチに教師の声(考え)を発せるようにすると同時に、深い理解をもたらす機会を提供します。自分と共に成長する教師が生徒に教える際に教え方を修正したいかとコーチが尋ねるとき、教師は自分の声を大事にしてくれていると思い、それに修正を加えるためにはよりよく理解する必要があるので、その方法を深く学ぶことになります。
チェックリストには、いくつかの目的があります。ある時は、何かの仕方を説明するために使われます。またある時は、作品の質を測るルーブリックとしての役割も果たします。さらに、チェックリストは、教師ないし生徒がすることを説明するのに、コーチによって使われることもあります。教師であれば、授業の導入で使い、生徒であれば自己評価やテスト勉強に使うことができます。
チェックリストは、生徒の学びとウェルビーイングに確実にプラスの影響を与えるように、教師が教え方を実践するのを容易にするものでなければなりません。それを実現するために、チェックリストは重要な情報を除外することなく、できるだけ短いものが望ましいです。加えて、チェックリストは、その教え方について鍵となる情報を、簡潔で、誰にでも分かる表現を使って書かれたものです。
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最後に、具体的なチェックリストの例を示します★★★。
上の訳は、次のようになります。
形成的な評価を効果的に使うためのチェックリスト
・すべての生徒が回答する(よく考えて反応する)。
・グループで回答するための方法を練習しておく。
・個別に自分の回答を説明するように尋ねる。
・必要に応じて、評価を繰り返しすることで、より鮮明にする。
・評価の結果を活用することで、生徒の学びを補強する。
・効果的な問い方を使って生徒がよく考えられるようにする。
★https://projectbetterschool.blogspot.com/2022/05/blog-post_15.html を参照。
★★「高次の思考」は応用、分析、統合、評価で、「低次の思考」は暗記(知識)と理解といわれています。「ブルームの思考の6段階」で検索してください。
★★★出典:666c8337cbda758723998bfd_model-Instructional-Playbook.v4.pdf
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