近年、日本の教育界では「個別最適化された学び」が重視され、多様な指導方法が模索されています。一人ひとりの学びの進度や理解度に応じた指導が求められる中で、ICT器機を活用した適応型学習が導入され、データをもとにした学習の最適化が進められています。しかし、こうした流れの中で、学習者の主体性を尊重するあまり、学びが「まかせっきり」になってしまうケースも見受けられます。
学習者が「自己調整しながら学ぶ力」を身につけるためには、単に個別の課題を与えるのではなく、教師が個別に一人ひとりに合わせて適切に指導し、学習プロセスを適切に導く必要があります。その強力な解決方法に、自立した学習者を育成する「カンファランス・アプローチ」について考えます。これまでの一斉指導との比較を交えながら、日本の個別最適化の課題を整理し、カンファランス・アプローチの評価の在り方と教育現場での実践について考えてみました。
日本の学校教育は、長らく一斉指導を中心に展開されてきました。一斉指導には「効率的な知識伝達ができる」「全員が同じペースで学ぶため、進度管理がしやすい」といった利点があります。しかし、その反面、学習者の理解度にばらつきが生じ、個々の学びに十分対応できないという課題もありました。
これを補う形で導入されたのが「個別最適化」です。ICT器機を活用し、生徒ごとに異なる課題を提供することで、学びの多様性に対応しようとする試みです。個別最適化の最大の利点は、学習者一人ひとりの進度に合わせた指導ができる点にあります。しかし、学習者の主体性を重視するあまり、「まかせっきり」の学習になりやすい側面も指摘されています。生徒が自ら学びを調整するための土台がないままに、個別課題を与えられるだけでは、学習の質はなかなか向上しません。
ここで求められるのは、「学習プロセスを適切に管理しながら、学習者が主体的に学ぶ力を養うアプローチ」です。教師が個別に生徒一人ひとりを丁寧に指導し、それぞれの理解度や学習スタイルに合わせたサポートを行うことが不可欠です。その手法として、カンファランス・アプローチが有効だと考えています。
カンファランス・アプローチとは、教師が学習者と1対1で対話を行い、フィードバックを通じて学びのプロセスを支援する方法です。単なる知識の伝達ではなく、「学習者がどのように考え、どのように表現し、それをどう改善していくか」というプロセスに焦点を当てます。
このアプローチでは、教師が学習者の思考を引き出し、適切な問いを投げかけながら、学習を深めることを目指します。ただ生徒に考えさせるだけではなく、教師が的確な指導を通じて学びを方向づけ、一人ひとりの成長に合わせたサポートを提供することが重要です。 これにより、学習者は「なぜそう考えたのか?」「他の視点はあるのか?」といったメタ認知を働かせながら、自らの学びを調整できるようになっていくからです。
ナンシー・アトウェルの『イン・ザ・ミドル』におけるカンファランスの考え方を振り返ると、教師による成績評価はほとんど重要ではなく、形成的評価であるカンファランスこそが学習の中心であるとされています。アトウェルの実践では、教師の役割は学習者の思考を見守り、適切なタイミングで的確なアドバイスをすることであり、点数評価は単なる補助的なもの(大人の都合)であるとされています。学習者を支援する上で大切なのは、「わかりやすく繰り返し教え込むこと」ではなく、「学習者のつまずいている間違った理解(スキーマ)を見つけ、修正すること」です★。
学習者が自分で知識を作り出し自立して学習できるようにするためには、一人ひとりの理解のズレや誤った認識に対して適切なフィードバックを行い、修正を促すことが求められます。そのため、「教えるべきこと」を子ども任せにせず、教師が積極的に関与しながら、学習者が自立した学習者になれるよう支援することがカンファランス・アプローチにおいて重要なのです。
★学習における認知心理学については今井むつみ『学力崩壊』が大変、参考になりました。
教師が一人ひとりに適切な支援を行うことで、学習者は自己評価を行いながら、自らの学びを管理する力を身につけていきます。カンファランスは単なる質問のやりとりではなく、教師の経験を活かした明確な指導が求められる場です。そのため、教師は生徒のつまずきを的確に捉え、どのようなスキルや知識が必要なのかを具体的に示していく必要があります。
カンファランス・アプローチは、「まかせる」のではなく「しっかり教える」ことで、学習者が自立的に学ぶ力を育てる方法です。一斉指導や個別最適化の限界を補いながら、学びのプロセスを重視し、形成的評価を取り入れることで、学習者自身が思考し、自己調整できる力を養うことができます。教育において、教師の役割は「知識を伝える人」から「知識を創造し、学びを支援する人」へと変化してきました。教師が個別に適切な指導を行うことで、生徒が確実に成長できる学習環境を整えていくことが求められています。
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