2023年1月22日日曜日

新刊『成績だけが評価じゃない ~ 感情と社会性を育む(SEL)ための評価』

 これまでに評価関連の本は、すでに何冊か出してきました。たとえば、

・『テストだけでは測れない! : 人を伸ばす「評価」とは』

・『成績をハックする ~ 評価を学びにいかす10の方法』

・『一人ひとりをいかす評価 ~ 学び方・教え方を問い直す』★

です。それらに加えて、なぜ新たな本を加える必要があるのでしょうか?


  著者本人の言葉(「はじめに」より)で紹介します。

私たちが生徒を評価する方法を思い浮かべれば、何を重視しているかがよく分かります。また、それを重視すれば誰が一番得をするのかという点についても分かります。誰が意思決定をしているのか、そしてその決定が、生徒を評価し、レッテルを貼り、彼らを無気力にしてしまうプロセスをつくりだす方法にどのような影響を与えているのかについて、教師として認識しなければなりません。言い換えれば、生徒にレッテルを貼ってしまうと、彼らに固定観念をもたせてしまい、時にはそのレッテルが剥がせなくなってしまうということです。

生徒は、教師の話すことを聞き、それを自分のなかに取りこみ、良くも悪くも「これが自分だ」と信じこんでしまいます。

本書の目的は、管理職と教師などの教育者を対象にしたもので、「感情と社会性の学習(SEL)」★★を教科内容に組みこんで評価を実践する場合、どのような評価が最適なのかについて検証する際に手助けすることです。そして、その結果、すべての生徒が学習に対する前向きな気質を育み、学校と教育の制度が一人ひとりの学びの尊厳を保障することを目指します。

たとえ教育を管理する際の効率化のためであっても、テストや成績を使って子どもを序列化してはいけません。また、「将来、あなたはリーダーという立場に就くとよい」とか「あなたは従属的な役割が向いている」などと社会的なヒエラルキー(階層)を指定するようなことが言ってもいけません。

 (中略)


私は、オルタナティブ・アセスメントとアセスメント改革にかかわってきた経験(『成績をハックする』を参照)とSELに関する研究から、これらの領域が重なる部分をさらに深く掘り下げる必要があることを知りました。そして研究を進めるなかで、核となる5つのSELに出合いました。これらのスキルは、教科指導とSEの統合を推進する目的で1994年に設立された非営利団体「Collaborative for Academic, Social, and Emotional LearningCASEL」によってまとめられたものです。

自己認識とは――自分の感情を認識し、それに名前をつけ、その感情が自分の学習、他者とのつながり、自分の反応などにどのような影響を与えるのかを特定する能力です。評価の観点では、自己認識は振り返りの形で現れ、生徒自らが学びとったことを根拠にして、自分の知っていること、できることを表現する能力です。生徒自身が自分の学習状況を理解すれば、自分が何を必要としているのかを私たちに伝えられます。

自己管理能力とは――自分の感情を調節し、整理して、自らを動機づける能力です。ここでは、目標設定と結果責任について考えます。生徒は振り返りのなかで、自らの形成的な学習経験からのフィードバックを受け取り、次の目標設定に活かせます。このようにして私たちは、学習状況を把握し、目標を設定し、自己評価への理解を深めるように生徒を指導します。

社会認識とは――他者の視点をもって、他者に共感する能力です。また、文化的な認識と多様性にもかかわるものであり、さらに教育の場合は公平性(公正)の問題ともなります。評価の領域では、クラスメイトからのフィードバックと相互評価を指します。

生徒がお互いに協力しあい、より良い学習環境が構築できるように指導するときは、少し難しい会話ができるような空間をつくって、私たち全員が学習者として成長できるようにします。また、他人の対応やフィードバックの仕方についていえば、その人を丸ごと理解していく必要があります。

対人関係は――私たちを互いに結びつける、持続可能で健全な人間関係の形成です。この能力において鍵となるのは、コラボレーション(協働)とコミュニケーションです。教室において、とくに評価にかかわる会話のなかでは、いかに協力して一緒に取り組めるようにするのか、つまり問題を解決するための方法を提供するといった形で生徒が共感し、理解するために、お互いの声に耳を傾けられるようにしなければなりません。

こうした関係性のスキルを深く学ぶ機会を何度も設けて、雰囲気づくりを行うなど、将来、一緒に働く人たちとのコミュニケーションが円滑になるための準備をします。

責任ある意思決定とは――状況を把握し、起こりうる結果を検討しつつ適切な選択をすることです。問題を特定し、複数の解決法を考え、そのなかから一つを選んで行動を起こします。

この能力を評価するためには、生徒が何をしなければならないかを見定め、よりよい選択ができるような機会を提供する必要があります。生徒の意見が一致しないときに介入するのではなく、意見の相違を自分たちで解決させて、その会話がどのように学習を改善したり、妨げたりしたかについて振り返ってもらいます。さらに、この能力はプロジェクト学習の一環となるので、単に時間を管理するだけでなく、生徒の各チームが目標を達成するように配慮します。

これら5つのSELの核となる能力は、学習するときを含めて、生きていくうえで不可欠となる「思考の習慣」(https://projectbetterschool.blogspot.com/2022/11/blog-post_20.htmlの2つ目の表を参照ください)として研究者が提示しているものと重なります。それらはすべて教えられますし、教えられるべきものです。また、誰にも居場所があるクラスを築くために、すべての年齢層の生徒と接する際には不可欠な要素となります。

 (中略)


本書では、第1章から第4章までにおいて「CASEL」の能力を取り上げ、その内容と、生徒の感情と社会性のウェル・ビーイングを促進しながら、子どもたちの学びをよりよく評価するために学校がすべきこと、そしてそれらの能力との重なりを説明していきます。

また、各章では、単元末のテストや総括的な文章課題だけでなく、継続的に行われる日々の形成的評価も含まれていることを念頭に置いて、全人教育(「whole-child education」のことで、教科の学習だけでなく、感情と社会性の発達など、子どもの成長を包括的に支援する学びを指す)とその評価の経験を築くための授業のあり方を紹介していきます。さらに、第5章では成績について、第6章では個別の評価について取り上げています。

評価とは、固定的なものではなく活動です。すべての生徒が必要なものを得ていると確認するために、継続的に取り組む形成的なプロセスであることを忘れてはいけません。日常的に生徒の学習を評価するというのは、いうまでもなく教師の責任です。これは、教師だけでなく生徒にとっても重要です。

生徒は、自分が何を知っているのか、何ができるのか、そしてそれをどのように学んだのかについて話し合う必要があります。一方、教師は、すべての生徒が効果的に学習できるように、指導はうまくいっているのか、何を修正し、改善する必要があるのかについて知る必要があります。

テストに表れるような成績は、評価全体のごく一部分でしかありません。目につきやすいため思わず重要視してしまいますが、ほんの些細な部分にすぎないのです。このような総括的なものでは、子どもが何を知っていて、何ができるのかは明らかになりません。さらに悪いことには、その後の学習に役立ちません。

フィードバック、振り返り、そして生徒一人ひとりのニーズを考慮した個別的な学習アプローチこそが効果的な学習者を育てるのです。このような学び方であれば、生徒が新しい知識やフィードバックを適用し、練習し、目標を設定し、教師やクラスメイトの助けを借りながら、スキルや内容についての知識を習得する機会が継続的に提供されます。このような取り組みこそ、私たちが重視すべきことなのです。

 

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★上記のリスト以外に、本全体ではなくても、その一部(かなりの部分)で評価が扱われているものには、

・『イン・ザ・ミドル ~ ナンシー・アトウェルの教室』

・『歴史をする ~ 生徒をいかす教え方・学び方とその評価』

・『一人ひとりを大切にする学校 ~ 生徒・教師・保護者・地域がつくる学びの場』

・『シンプルな方法で学校は変わる ~ 自分たちに合ったやり方を見つけて学校に変化を起こそう』

・『あなたの授業力はどのくらい?~ デキる教師の七つの指標』

・『プロジェクト学習とは ~ 地域や世界につながる教室』

・『教科書をハックする ~ 21世紀の学びを実現する授業のつくり方』

・『増補版 「考える力」はこうしてつける』

・『ピア・フィードバック』

などがあります。

 

★★SELについては、

・『感情と社会性を育む学び(SEL)~子どもの、今と将来が変わる』

・『学びは、すべてSEL ~ 教科指導のなかで育む感情と社会性』

・『エンゲージ・ティーチング――SELを成功に導くための5つの要素(仮題)』

を参照してください。

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