2019年7月14日日曜日

新刊案内『教育のプロがすすめるイノベーション』



「教育機関では、新しい機会を受け入れることをしばしば躊躇します。私たちは、マイクロソフトのワードからグーグルのドキュメントに切り替えることに不満を覚えました。それは不便になるからではなく、変化だからです。」(iiiページ)
 確かに、学校ほど世の中の変化と縁遠い組織はないかもしれません。(150年前の人はもちろん、300年前の人が現代にタイムスリップしても、学校だけはすぐに分かると思います。)しかし、このままでいいのでしょうか?

 すでに、以下のような時代に入っていることは明らかなのです。
・教師が提供できる教材よりも優れた情報に、生徒はスマホなどでアクセスできる時代です。従来のように、学校が内容や情報を提供するだけの場であり続けたら、このような現実は学校を維持することに対して脅威となるでしょう。
・生徒が宇宙について学びたいと思っている場合、教師に尋ねることなくNASA(日本でこれに相当するのは宇宙航空研究開発機構、JAXA)のホームページを開き、宇宙飛行士や科学者のブログを読むことでしょう。
 著者も書いているように、「絶えず変化する世界では、すでに行われていることだけを維持しようと考えていると、事態はさらに悪化することになる」(25ページ)だけです。

 それを避けるためには、「イノベーターのマインドセット(能力、知性、才能は育てることができ、それが新しくてよりよいアイディアの創造につながるという信念/思考様式)」を教育関係者がもつことを提唱しているのが本書です。
 そして、確実に言えることは、もし「イノベーティブな(創造性に富み、枠にとらわれずに行動ができること」という意味)生徒」を望むなら、まずは「イノベーティブな教師」が欠かせません。

 そのイノベーティブな教師の8つの特徴を詳しく説明してくれているだけでなく、図解までしてくれています。
 そして、今日の授業で求められる8つの特徴も詳しく。
 さらには、それを実現するために教師にできることも。
 (日本語訳には、もちろん、これらの図の訳が掲載されています!)

 ここでは、それらについての詳しい紹介はできませんが、大事なポイントを二点だけを紹介します。

① 授業の中心は教師ではなく、生徒全体でもなく、生徒一人ひとりであると述べています。このような環境をつくり出すために毎日問われなければならない質問は、「この学習者にとって、何が一番よいのだろうか?」ということです。(15ページ)
イノベーティブな教師になるための鍵となる質問(40~44ページ)
・自分自身がこのクラスの生徒になりたいか?
・この生徒にとっての最善は何か?
・この生徒がもっている情熱は何か? ~ あなたは、一人ひとりの情熱や興味関心やこだわりを把握していますか?
・真の学びのコミュニティーを学校につくり出す方法にはどのようなものがあるか? ~ 日本で従来からやられている教員研修・研究でないことだけは確かです! 創造的な企業が導入していることが参考になります。
・今やっていることは、どのように生徒たちの役に立っているのか? ~ 習慣的にしていることを見直す必要があります!

 このように、本書には変化をもたらすための(思考を活性化してくれる)いい質問がたくさん掲載されています。「満載」と言ってもいいぐらいに。著者自身も、答えを提示するよりも、問題提起をする本と位置づけているぐらいですから。
 そして、いい問いを出すための一つの具体的な方法として、著者は「もし~なら」と考えてみることを提唱しています(163~4ページ)。たとえば、
・もし、生徒が唯一の学習者ではなく、学校にかかわるすべての人が「学習者」として学校が運営されていたら、どのようになるでしょうか?
・もし、リスクを取ってでもチャレンジすることを教師と生徒に推奨し、それを自分自身も管理職としてモデルで示したら、どのようになるでしょうか?
・もし、生徒だけでなく組織内の全員が夢を追うことを奨励されたら、どのようになるでしょうか?

② もう一つは、一人ひとりとの関係の大切さです(著者は、それを視覚的に「関係、関係、関係」と3つも繰り返すことによって、強調しています。一回や二回ぐらい書くだけでは、まったく不十分だからです!)。すべての基盤なのですが、これほど昨今の日本の教育で軽視されているものはないかもしれません。

本書は、常に「学習者ファースト」が貫かれており、学習者のために、常識にとらわれず、最善を尽くそうと呼びかけています。学習者の中には、生徒はもちろん、教師や管理職、保護者や地域の人など、すべての人が含まれます。その意味で、この本は、あらゆるレベルと領域の教育関係者に向けて書かれていますが、教育関係者以外にも刺激になる情報が満載です。
 ワクワクするようなヒントや問いをあちこちに散りばめ、最初から最後まで読者を励まし続けます。読めばあなたも自分の能力を信じることができ、すぐにでも動き出したくなるに違いありません。この夏にぜひ本書を読んで、その中から気に入ったアイディアをいくつか選び、秋から実行に移してください。

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