今月7日のこのブログで、2冊の本が紹介されましたが、その一つ、『「みんなの学校」が教えてくれたこと』木村泰子/小学館2015を読んだ感想を書きます。
この本で紹介されている大阪市立大空小学校は、ドキュメンタリー映画「みんなの学校」で紹介されたので、映画をご覧になっている方もいらっしゃると思います。
実は、映画になる前に、NHK・Eテレ(教育テレビ)でも1時間番組で紹介されました。たまたまタイトルにひかれて、録画をしておいたので、しばらくして学生たちと一緒に見ました。インクルーシブ教育の素晴らしいところを指摘する声と、反面なかなか大変な教育だという受け止めが多かったように思います。
この本と映画のなかで、おそらく多くの小学校で手のかかるということで、居場所がなくなり、学校に行けなくなった子供たちが、この大空小学校に受け入れられ、育ちあえるところにまで成長していく姿が描かれています。
「みんながつくる みんなの学校 大空小学校は 学校と地域が共に学び 共に協力しあいながら「地域に生きる子ども」を育てている学校です。」
「地域とともに」は公立の小中学校に欠くことのできない経営の視点だと思いますし、この大空小学校でも地域の人々が登下校はもちろん、授業のなかでもかかわっている姿が描かれています。
また、授業についても、特徴的な実践があります。
大空小学校では毎週月曜日の1時間目に「全校道徳」を展開しています。ここでは、1年生から6年生までの混合グループを作り、テーマに関して話し合いをするそうです。職員や保護者の有志(サポーター)や地域の人々もこの授業に参加し、大人は大人だけのグループを作るようです。ここで、子供たちは話し合うことの大切さや面白さを学びます。これが、「学校の基幹」を築いたと校長の木村さんは書いています。
この大空小学校で用いられている手法は、「効果10倍の教える技術」などで紹介されている「学びの主役は子供」という考えが根底にあるので、うまくいくのだと思います。教師が一生懸命に教え込むというスタイルを捨てて、子供の主体的な学びを大切にしているのです。校長の木村さんは、このことを『「自分の電車」を自分で用意させる』と表現しています。
このように学ぶところがたくさんある本ですが、注文をつけるとすると、子供の主体的な学びがもっと具体的に数多く描かれていると、さらに説得力のあるものになったと思います。また、「みんなの学校」の映像でも感じたことですが、校長ががんばっている様子はよくわかるのです。しかし、あまりにもその場面が多すぎて、これではこの校長がいなくなったら、おそらく、この学校はうまくいかなくなるだろうということです。研究学校などでせっかくよい実践ができるところまでいっても、研究指定が終わり5年も経てば、その成果も跡形もなくなるという姿をこれまで幾度となく見てきたからです。そうならないための工夫がもしあるのだとすれば、そこまで紹介して欲しかったと思います。
もう一冊の「イギリス教育の未来を拓く小学校」もこの後、ぜひ読んでみたいと思います。
出版元の大修館書店のホームページには、この本の各章のタイトルが掲載されていました。
第1章 成長への新たな指針
時代の流れに逆らう:研究の前提とするもの
もう一つの方法があること次へのステップ:限界なき学びの創造
物語の展開
第2章 基礎を築く
ありし日のロックザム校
サークル・グループ・ミーティングラーニング・レビュー・ミーティング
専門領域チーム
学校全体の継続的な専門職開発
学習を生き生きとさせる
結論
第3章 学びへの自由を広げる
選択の機会を与える
子どもたちの声を聴く共に学ぶこと
開かれたカリキュラムの経験
子どもたちに自分の学びを評価させる
学びへの自由を広げる
第4章 学びの人間関係を再考する
挑戦、調和そして「ナチュラル・バランス」
共通の理解に向けて受容の構築とその伝達
共感することの大切さ
確固とした目的を維持する
つながりを結ぶ
第5章 学びを第一に:学校全体で学びの文化を創造する
学校全体で学びの文化を構築する際のリーダーシップの役割
安定した環境
優れた学習者としての専門職共同体を創るすべての人が学校の学びの文化に関わる
道徳的要請
第6章 集団的行動がもつ力
学ぶ力を変容する力
学校改善に向けた特徴的なアプローチ現実的関連性、応用可能性、そして示唆
待ち受ける未来:ここからどこへ向かうのか
最後に
これを見ると、大空小学校との共通点もありますが、違いもあります。イギリスのほうがよりシステム思考的なものが多いかなと判断できます。そのあたりはぜひ、次の機会に紹介したいと思います。
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