2025年3月30日日曜日

それはまるでさざ波のように…

みんな頑張っているんだなぁってさ。」

学校の核として常に子どもたちのことを考えながら、時に厳しく若手を見つめる主任の先生から言われた一言に、とても嬉しくなった。

長期的な視点で、いつかは組織の文化として根付かせたいという課題意識をもちながら取り組んできたメンターチームづくり。これまではメンターとメンティーという小さな社会の中で完結することが多い関係性であり、取り組みであった。

 

「メンターメンティー研修って何するの?」

同じ学校組織の中で日々業務にあたっているものの、実際にどんなことをやっているのかわからない教職員が多かったこの研修。しかし、最近、徐々にこのチームづくりの様子が他の先生方にも広まり始めたのだ。

とある学年主任は机に置かれたメンターからメンティーにあてて書かれた、初任者であるメンティーの振り返りに対するフィードバックを見つけてじっくりと眺めていた。席に戻ってきたその初任者(メンティー)に対して

「これ、一人ひとりに書いてもらってるの?」

「はい。メンターメンティー研修で、日頃の振り返りと共に困っていることを相談したり、他に考えられる手立てや実践例を話し合ったりしていて、それは先輩(メンター)方から、初任者(メンティー)が一人ひとりいただきました。」

すごいね。細かく見てもらってありがたいね!」

直接、取り組みに関わっていなくても、自分たちの組織の中で、互いに高め合ったり支え合ったりしているということを知り、受け入れてもらうことはとても大切だ。別の機会や違った場面で「育てる」「支える」という意識を持ってもらえる機会となる可能性があるからだ。この意識づけが、「自分も研修に関わりたい」という意識まで動くように、取り組み続けようと思う。

なんだかさ、仕事してたら、わらわらと(メンターである)若手が集まり始めてさ。『(メンティーの)〇〇さんは〜だから、教科指導の内容に触れたほうがいいよね。』『体育は(メンターの)Aさんが聴いてあげるといいよね。』『タスク管理は(メンターである)私も初任の時苦労したから一緒に考えてあげてもいい?』とかって話し合いを始めたのよ。事前に初任者(メンティー)にアンケートとって、研修の内容決めたり、(メンターのうちの)誰が(メンティーのうちの)誰とフィードバックし合うって自分が行ってきたことを俯瞰して見たり、新たな課題を考えたり、真剣にでも楽しそうにやってんのよ。自分のことも大変だろうに、学校のために動いてるんだなって。

いつも、子どもたちのことを本気で考えるが故に、若手の先生方に厳しい眼差しをむける学校の中核的存在の学年主任との話の中で、私はこれまでの活動が本当に少しずつ、しかし確実に効果として現れていると確信するとともに、本当に心から喜びを感じた。

私は少なからずこの組織づくりに興味をもち、理論を本や研修、ミーティング等を通じて学んできた。そして、理論と実践の往還を少なからず心がけて取り組んできた。だからこそ、私だけが力を入れて取り組んだところで、「支え合う」「学び合う」組織作りは難しいことは分かっていた。他の先生方にどう意識づけて、私がいなくても自分たちだけで取り組めるような組織づくりをどのように進めていけばよいか。これが今、一番の課題だった。その中でのこの話は、本当に大きな成果の一つだと言ってもいい。

 

先日、今年度最後のメンターメンティー研修が行われた。メンティーである初任者たちにとって現在抱えている自身の学級経営における悩みや教科指導を充実させるための具体的な手立てを共有したり、来年度に向けて子どもたちのために取り組むべき新たな課題を設定できたりすることができ大きな成果が得られた。それ以上に、メンターたちがメンティーたちのことを考え、どのようにフィードバックしたらよいかや考えを伝えるための思考の整理、研修の企画遂行など、多くの力を得ることができたようだった。

「初任者(メンティー)たちの生の声は聴けた。でももっと、話を引き出してあげることが大切だと思う。」

「もっと具体的な事例をもとにフィードバックをしていけば、次、何をしたらよいかが見えやすくなるんじゃないか。」

「まずは、一緒にきちんと向き合えるように、自分自身の実践、引き出しを増やしていかなければ!」

メンターたちとのフィードバックで出てきたこの具体的な次への課題は、小さな波に過ぎないかもしれない。しかし、今後うねりをあげる「学び合う職員室」「支え合う職員室」という大きな波への原動力となると考える。そんな小さな波を大切に、これからも自分にできることを続けて取り組んでいきたい。

以上は、自分の学校での初任者研修を中心に、学び続ける教師集団をつくり出そうと過去3年間努力している教務主任/初任者校内指導教諭の田所昂先生(埼玉県)の今年度最後の実践記録です。

2025年3月23日日曜日

「学ぶ職員室」を目指して

 教師の教育観は様々で、専門性も力を入れていることも様々である。だからこそ、自分の考え方や感じ方を「普通」と捉えずに、それぞれの先生方がどんなことを考え、どのように指導にあたっているのか。それぞれの個性を知ったり、教育観を知ったりすることは非常に大切だと考えている。そのために私が普段から心がけていることがある。

① 職員室の先生方観察

  先生方の表情や仕事ぶりを観察していると、様々なことを知ったり考えたりすることができる。

  時に、耳をダンボにして、先生方の会話の内容がどんなものか聴きながら、コミュニケーションのきっかけにしたり、話す中身を決めたりすることができる。何気ない会話がお互いの自己開示につながり、その人となりや関係づくりにつながる。

  時に、普段と少し表情が暗い、口数が少ない先生がいたときは積極的にコミュニケーションを図り、少しでも力になれることはないか、信頼関係構築の一歩となるように努める。

そんな日頃の何気ない観察の積み重ねがいつしか、「とりあえず話してみよう」「あの人にお願いしてみよう」といった拠り所となり、校内の情報収集を図れる存在となることを目指している。 

 ② 校内散歩

  6年生に「お散歩が仕事」と言われるくらい、校内を毎日周る。もちろん、ただ周るだけでなく、いくつか観点をもって周っている。一つは児童理解。子どもの顔と名前、学級での様子を見るには現場にいかなければ分からない。もう一つは先生方の困り感を理解すること。先生方が日々学級指導、教科指導を行う中で、どんなことに力を入れ、悩んでいるのか。きちんと理解しなければ、先生方との真のコミュニケーションは図れない。考えたことや手に入れることができた情報は放課後に先生方との会話の種にする。一緒に課題を考えていく立場であると理解してもらえるように動いている。

 ③ 自分の実践や考え、学びの発信

  自己開示ほど大切なことはない。自分が何を考え、どんな実践をし、どんなものを得たり、課題としたりしているのか。そういったことを自己開示することが、相手の自己開示にもつながり、お互いの理解・信頼関係の構築につながると考える。何気ない会話の種となることで、思いがけぬ共通点や、知らなかった一面の理解等につながる。

 

  そんな普段の何気ない積み重ねが少しずつ実ってきたなと感じた瞬間があった。来年度の学校体制について少し考えたいことがあった。私が担当に直接話して投げたり、何も言わずに自分の中にとどめておいたりするという手段が思い浮かんだ。

  しかし、ある日、何気なくコーヒーを入れようと給湯室に行くと、ある先生から、「先生は来年度の校内研究体制についてどう思いますか?」という会話を振られた。

私は普段その先生と児童とのやりとりであったことや家庭の話など、そこまで真面目な話はしてこなかったので、その話をふられたのには驚いた。

「このままでは、どんな姿の子どもたちを目指すのかが分からない」「研究授業者だけががんばる研究は避けたい。全員が主体的に自分事になる研究を目指したい」「一人ひとりが課題や手立てを決めて、お互いにフィードバックし合うような研究がおもしろそうだよね」と、二人のやり取りが続いた。

話せば話すほど、研究の方向性で目指したい姿が同じであると感じた。ここまで深い話ができたのは、今まで他愛もない話ではあるが、様々なコミュニケーションを取ってきたからかと感じた。

「実は、他にも同じような考えをもっている先生がいそうなんだよね。先生もそう思うなら私がんばってその先生に話してみる。」

結果的に、様々な先生から、いつもであれば前年度踏襲が多かった来年度の話に、たくさんの意見が出る会議となった。日々のコミュニケーションによる関係づくりを進めたことで、何気ない会話から会議を動かすようなムーブメントを起こすことができた瞬間だった。

  職員同士の関係づくり。答えのないこの関係づくりこそが、教職員の方向性を同じベクトルへと向けていく上で、実は一番大切なポイントなのではないか。本当に目の前の子どもたちのためになることは何か。そのために私たちがまず一番にやるべきことは何か。それを一人ひとりが自分事として捉え、進めるために真剣に考え、議論していくこと。それが今、一番学校の教職員組織に求められている姿なのではないかと感じる。

  そんな「学ぶ職員室」の実現に向けて、日々少しずつ取り組むべき関係づくり。その関係づくりがもたらす、ムーブメントを起こす力を垣間見ることができた今、私はより一層日々の実践を積み重ね、より良い学びの集団を根付かせることができるように努めていく。

以上は、自分の学校での初任者研修を中心に、学び続ける教師集団をつくり出そうと過去3年間努力している教務主任/初任者校内指導教諭の田所昂先生(埼玉県)の実践記録です。

2025年3月16日日曜日

本当の学びとは?

  初任者は校内で公開授業や研究授業を年間数本実施しなければならない。指導案を考え、その内容で指導を受け、授業までに様々な手立てについて自問自答する。そして、授業後は研究協議会や参観していただいた先生方から指導を受け、その後の授業に活かす。これが、今まで取り組まれてきた初任研の研究・公開授業の形である。

 そんな指導の中で、私には気になる点がいくつかある。

 一つ目は授業前の指導だ。経験がたくさんある先生方にとって指導案に対する指導はとてもしやすい。もちろん基本的なことや、大きく内容が逸れていたり、指導方法に問題があったりする場合は指導する必要がある。しかし、経験を押し付け、やる前から指導を否定したり、「この方がいい」と別の指導法を提案したりすることが多々ある。果たしてそれは本当に初任者のためになるのだろうか。

 二つ目は授業後の指導だ。授業した初任者が、一方的に先輩である先生方から指導を受ける。「これがよかった」、「これはこうした方がいい」、「私だったらここはこうする」、そんな話を受けながらメモを取る姿は、毎回見られる光景だ。しかし、そこから本当に初任者は次の授業や指導に活かせる学びを得ることはできるのだろうか。一番厄介なのは先輩の先生によって言うことが違っている場合だ。一体何から変えていけばいいのか。いらぬ悩みは増え、自分の色を出した指導など程遠く、指導改善にもつながらないケースも見られる。

 私は校内指導教諭という立場になり、初任者の授業を見て、指導を行う際に心がけていることがある。それは、『初任者の考えを整理し、次の授業では何をしたいか自己決定させる』ことだ。

 先日、本校の初任者が最後の校内の研究授業を行った。特別の教科道徳の研究授業であったが、様々な立場の先輩の先生方に事前に色々な指導を受けていた。それぞれに指導観が出やすい道徳において事前指導を受けていることに若干危機感はもったものの、授業本番の時間を迎えた。

 実際に授業を見てみると、初任者の迷いは感じられず、とてもいい雰囲気のなか授業を行っていた。事後指導の際、まずは初任者に感想を求めると「様々な先生方からお話いただきましたが、自クラスの実態を見たときに、私は今回○○について取り組みたいと考えたので、○○を主発問にしたいと考えました。…自分なりに考えて、実際に取り組んでみたので、とっても楽しかったです。」

 その後、うまくできなかった点や、他の先生方から指導いただいた中で疑問におもった点を出してもらいながら「それはどうして(児童が)その反応になったと思う?」「今、言ったような反応にするためにはどんな手立てが考えられる?」「今話した中で、次に授業で活かしたい手立てはどんな手立て?」と問いを立てて、初任者自身の思考を整理しながら、次への課題となる手立てを自己決定させて、次への授業へとつなげられるようにした。

 このようなやりとりを年間続けたことで、上に挙げたような初任者が自分なりの考えのもとに授業を構成する力をもつといった成長につながったのではないかと私は考える。

子どもが自ら何が課題かを自分で見つけ、様々な手立ての中から選択し、試行錯誤しながら時に協働してよりよい納得解を考え、そして新たな課題を見出して、次の学びへとつなげていけるような力が求められている。そのためには、教師自身がその学びを体験しながら、子どもとの向き合い方を考えていく必要があるのではないか。そんなことを考えながら、初任者と日々向き合い、自分自身もよりよい若手教諭の育成、学ぶ職員室づくりを目指して、日々試行錯誤していこうと思う。

以上は、自分の学校での初任者研修を中心に、学び続ける教師集団をつくり出そうと過去3年間努力している教務主任/初任者校内指導教諭の田所昂先生(埼玉県)の実践記録です。

2025年3月9日日曜日

この問題、解けますか? 考えるための3種類の良問

ある風変わりな女性がホテルにやってきて、となり合った3つの部屋を予約しました。女性は受付係にこう伝えました。「もし私に連絡があるのなら、前日にいた部屋の隣の部屋に必ずいるので、直接、言いに来て!」

 

 受付係は特に気にしていませんでしたが、1時間後にその女性のクレジットカードが使えなくなっていることに気づき、女性を探さなければならなくなりました。しかし、受付係はあまりにも忙しく、1日に1つの部屋しか確かめることができません。はたして、受付係は何日以内に女性を見つけることができるでしょうか。

 

この問題に取り組むとき、子どもたちはどのように考えるでしょうか? 想像してみてください。まずは手始めに部屋を受付係が移動しながら、「きまり」を見つけようとするかもしれません。または、論理的に順序立てて評に整理をしながら、すべての可能性を試す方法を考えるかもしれません。

 

たとえどんな方法で考えたとしても、子どもたちは必ず試行錯誤を繰り返しながら解決策を見つけることになります。こういった考える機会こそ、算数・数学の授業で大切にすべきものではないでしょうか。

 

子どもたちが問題を解いてしまったらそれで終わりではありません。さらに考えてみましょう。もし、部屋が4つの場合はどうでしょうか? 5つの場合は? そこに「きまり」はみえてきませんか? 

 

さらに!

 

もし17部屋あり、女性が30日間滞在する予定だったら、受付係は女性がホテルを出発する前に見つけることができるでしょうか?

 

ぜひ、今、考えてください! 

 

多くの中学校、高校の数学授業では、やり方を教え、それをもとに生徒たちが練習問題を解くという流れがまだまだ一般的です。また、最近の小学校ではこういった教師による教え込みは減ってきてはいますが、教科書ありきの個別最適という名の自学自習が求められています。

 

「方程式を解きなさい」「二次関数のグラフを描きなさい」といった問題は、手順さえ覚えていれば解けてしまいます。確かに、これらは数学の重要な概念を学ぶ上で欠かせませんが、このような問題ばかりでは、子どもたちは「考える」ことをしなくなります。なぜなら、それはすでに正解への道筋が決められているからです。算数・数学の本質は、未知の問題に対して、どのようにアプローチし、解決策を見つけるかにあるにもかかわらず。

 

では、考える力を育てるために、どのような「良問★」が必要なのでしょうか。

 

 

 

①  非カリキュラム型の思考課題

ひとつのアプローチとして、「非カリキュラム型の思考課題」があります。この課題は、学校の教科書に載っている問題とは異なり、公式や定理を単純に適用するのではなく、子どもたちが自ら考えたくなる問題です。

 

1から100までの数に、7は何回現れるのか?」

この問題は、単純な計算問題のように見えますが、実際に解こうとすると、どうやって数えるかを考える必要が出てきます。「70から79の間には10回出てくるな」「772回カウントするのかな?」、様々な試行錯誤が生まれます。

 

4分と7分の砂時計を使って9分を計ることはできるか?」

これは、単なる時間の計算ではなく、どのように2つの砂時計を組み合わせるかを考えなければなりません。このような問題を通じて、子どもたちは試行錯誤を繰り返し、数学的な思考力を高めていきます。

 

 

 

② 再構成されたカリキュラム型思考課題

既存の算数・数学の学習内容を活かしつつ、子どもたちがじっくりと考えられるように再構成した課題も効果的です。

 

100ドルを5セント、10セント、25セントのコインだけを使って作る方法はいくつあるか?」

この問題では、組み合わせの考え方や試行錯誤が求められます。単なる計算ではなく、パターンを見つけたり、異なる方法を試したりすることで、数学的な思考が鍛えられます。

 

252つ以上の数の和で表し、その積が最大になる組み合わせを見つけよう」

和と積の関係性を考えながら、試行錯誤をすることが求められます。「25124の和として表すと積は24」「1213なら積は156」といった具合に、いろいろな組み合わせを試していく中で、最適解を導き出すことになります。

 

こういった良問を通じて、子どもたちは算数・数学の知識をただ覚えたことを練習問題に使うだけでなく、知識を使うことでこそ、概念そのものを深く理解することができます。

 

 

 

③ 直接指導型のカリキュラム課題の工夫

教科書の問題であっても、指導方法を変えることで子どもたちの思考を促すことができます。例えば「因数分解をしなさい」という問題をそのまま出すのではなく、「数を分解するさまざまな方法を考えてみよう」と解法の自由度を持たせることで、子どもたちの思考を広げることができます。そして、計算練習を10問やるよりも多様な方法を考えるほうが効果的です!

 

36をできるだけ多くの方法で分解してみよう」

子どもたちは「6×6」「9×4」「18×2」など、いろいろな方法を試します。もしかしたら3口の計算も考えるかも知れません。この過程で、因数分解の意味をより深く理解し、単なる公式の適用ではなく、構造的な視点から数学を捉えられるようになります。

 

「一次方程式を解きなさい」ではなく、「この方程式の解は何を意味しているのか考えてみましょう」と問いかけることで、子どもたちは計算結果の背後にある意味を考えるようになります。単なる数字の操作ではなく、算数・数学が実生活とどのように結びついているのかを意識することができるようになってくるのではないでしょうか。

 

 

 

授業に良問を取り入れることは、決まり切った解法がない中で子どもたちが多様に問題解決することを求めます。どの方法が効果的かを考え、順序立てて思考する論理的思考力が養われていきます。何よりも、自分の考えがそのまま解決につながる「あぁ!とけた!」といった数学的経験は、「考えることのが楽しさ」を実感させてくれるのではないでしょうか。そしてそれは、子どもたちから「算数・数学って、分かっている問題をただ繰り返し解くんじゃないから好きになった」という声が聞けるようになってくるはずです。

 

算数・数学の授業を「解き方を覚える場」から「考える場」に変えることは、決して難しくありません。課題の選び方を少し工夫するだけで、子どもたちの思考の深さは大きく変わります。「この問題、どうやって解けばいいんだろう?」と本気で悩み考える瞬間こそ、算数・数学の本質が生きる瞬間ではないでしょうか。★★

 

 

 

★最初に示した問題のように、じっくりと多様に考えるにふさわしい課題をここでは良問とも呼んでいます。

 

★★今回の記事は、Peter LiljedahlBuilding Thinking Classrooms in Mathematics』に感銘を受けて、第1章を参照に、良問の視点からまとめ直したものです。

 

以前のPLC便り『「考える教室」をつくるには』では、上記の本の概要についても紹介しています。

https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/04/blog-post.html?m=1

2025年3月2日日曜日

エンゲージメントを決定づける要因

前回に続いて、しばらくエンゲージメントの問題を考えていきたいと思います。★1

私たちは、これまでは学ぶ動機ついて考えてきました。カタカナでいえば、モチベーションです。では、モチベーションとエンゲージメントの違いは何なのでしょうか。従来からある動機付けだけでなく、エンゲージメントも考えていくべきなのはなぜなのでしょうか。

モチベーションとエンゲージメントの違いは、モチベーションは「なぜ、私たちが行動するか」を説明するもので、エンゲージメントは、「どの程度私たちがその行動に関与しているか」という説明するものだという定義が分かりやすいと思います。★2 やる気と行動をつなぐものとも言えるでしょう。やる気が具体的な行動につながるプロセスを理解することが、エンゲージメント理解の鍵となりそうです。

そこで、やる気が具体的な行動につながる要因について、サラ・マーサーとゾルタン・ドルニュイさんの、著書を参照しながら考えていきたいと思います。★3

やる気が具体的な行動につながる重要な要因として、学習者がもつマインドセットがあると述べています。同書では「促進的マインドセット(facilitative mindset」と呼んでいます。「学習に積極的に取り組む価値があると感じるようにさせる信念や感情」という言い方で表現しています。

そして、学習者が学びに没頭するためのレディネスと意欲を促進する五つの原則をあげています。

原則1 有能感を高める
原則2 成長マインドセットを育む
原則3 学習者の当事者意識と自己統制感を高める
原則4 積極性を育てる
原則5 粘り強さを育てる

そのうち、今回は、有能感を高める方法についてみてみましょう。有能感というのは、自己効力感(self-efficacy)のことで、「ある状況で特定の課題をうまくやり遂げられるかどうかをめぐる個人の信念」と定義されています。

今では、多くの人が、自己効力感の重要性を認識していて、学習者との関係を築く中で大切にしていると思いますが、具体的にどのようなスタンスで接すれば良いのか、十分な理解が広がっているとは言えないと思います。同書では、有能感を高める方法として次の4つが紹介されています。

1 成功体験
 「自分の努力で獲得した真の成功」をおさめる体験をする。ろくに努力もせずに、転がり込んできた成功では有能感は育たない。

2 フィードバックと足場がけ
 すでに達成されていることに焦点化し、学習者の進歩を肯定的に評価すること。そして、学習者が自分の力で達成できるように課題を細分化するなどの足場がけを行うこと。

3 ロールモデルと代理学習
 自分と似た立場の人がうまくやっているところを見たり、思い描いたりすることで自己効力感が高まると言われている。ロールモデルとなるような人を観察し、その人たちの体験を通して学ぶ代理学習も役に立つ。
 
4 感情調整
 授業内の活動を通じて、楽しさや自尊心のような肯定的感情を得ることができること。授業の中で、豊かで、ポジティブな感情を味わうことができれば、有能感が高まる可能性は高い。一方で、授業で不安や心配、恥ずかしさを感じると、有能感はぐらついてしまう。
 
生涯にわたって学び続ける意欲やスタミナを支える土台は、学習者の心に芽生える、このような自信や前向きな感情なんだろうと思います。

最後に、同書に掲載された引用を掲載しておきます(p.48):

「私たちは理性と感情の生き物である。したがって両者が連動すると、がぜん学び始める。」(VanDeWeghe 2009, 249)  
 
  
★1  「エンゲージメントの周辺」PLC便り, 2025年2月2日 https://projectbetterschool.blogspot.com/2025/02/blog-post.html

★2 廣森 友人/ 小金丸 倫隆(2024) 『エンゲージメント×英語授業 「やる気」と「意欲」を引き出す授業のつくり方 』 明治図書出版

★3 サラ・マーサー/ゾルタン・ドルニュイ(2022)『外国語学習者のエンゲージメント』アルク


2025年2月22日土曜日

つながりをもつ教師になる

3か月ぶりの登場です。前回11月には『一人一台で授業をパワーアップ!』(学文社・2024)のなかで、当該書籍に収めきれなかった第9章に関連するお話をさせていただきました。今回は残りの一つ、第10章「つながりをもつ教師になる」を取り上げたいと思います。

この章の冒頭で、著者の一人であるニービー先生は、学習評価を見直すために、定期試験の代わりにディジタル・ポートフォリオの導入を同僚にもちかけます。もちろん、同僚も導入に賛成するのですが、具体的にどうすればよいのかわかりません。校内にはそのポートフォリオを知っている人はだれもいませんでした。そこで、彼女は学びのネットワークに次のような投稿をしました。 

国語の九年生と一〇年生の授業でディジタル・ポートフォリオを構築するための情報を探しています。何かよいアイディアはありませんか?」 

すると、次の授業が始まる前までに、「ブログ記事の作成方法」、「ポートフォリオのサンプル」、「ルーブリック」など、多様な情報が隣町からオーストラリアに至るまで、世界中の教師仲間から届きました。このオンラインのネットワークのおかげで、期末試験の代わりとなるディジタル・ポートフォリオは何の問題もなく終了しました。

彼女は「X(:ツイッター)によって、仲間の教育者がノウハウを共有し、いつでも知恵を提供してくれるのは何とも心強い限りです。」と述べています。

そして、それに続けて、マルコム・グラッドウェルの『ティッピング・ポイントいかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか』(高橋啓訳・飛鳥新社・2000)の文章を紹介しています。 

「仕事上の関係者、同僚、友人、近所の人に連絡を取れば、おそらく誰かが助けてくれるでしょう。そういう使い方だけではもったいないので、同じ媒体をあなたの教育に活用してください。友人や近所の人は、グーグル・ドキュメントを生徒と共有する方法を見つけたり、どのブログのプラットフォームが授業に最適かを判断したりするのを手伝ってくれないでしょうが、教師仲間にはたくさんいます。彼らも知らない場合はどうすればよいでしょうか? そのためにより広いネットワークが必要です。」 

これを読むと、人々の幅広いネットワークと緩やかにつながることで得られる利点について充分に納得できると思います。ですから、この一文の紹介に続く、次の文言は心に応えるものです。 

「他の多くの職業では、仕事をする際のネットワークの必要性を重視しています。しかし、何らかの理由で、教師は歴史的に最も孤立した職業の一つであり続けています。」 

この翻訳本の作成協力者から「その理由の一つに、教科書の内容をカバーするだけの授業を続けていれば、社会とは隔離されていても何の不都合もないからだと考えます。」というコメントをもらいました。まさにその通りです。社会とつながる学びを教室内で展開しようと思えば、保護者や地域と、あるいは企業や行政とつながる必要が生まれます。煩雑で時間と手間のかかる活動です。しかし、それをやるのとやらないのでは、「学びの質」が格段に違ってきます。しかし、そうせずに教科書をカバーする授業だけやっていても、給料はもらえて、しかもそのほうが楽なわけです。楽な方に身を置くか、面倒でも人とつながる学びをするのか、これはその教師の考え方、生き方そのものです。こうした場面で、身近なところ(校内だけでなく、地位の学校、あるいは広範囲の研究団体、オンラインのネットワーク)にモデルとなる人がいるかどうかが、その教師の生き方を決めるように思います。(これは、教室内で教師が子どもたちの学びのモデルになっているかどうかと同じことです。)

「叩けよ、さらば開かれん」ではありませんが、先ほどのニービー先生のように、アドバイスを周りの教師(オンラインも含めて)に求めれば、必ず助けてくれることが多いと思います。 

『一人一台で授業をパワーアップ!』の第10章の最後は次のような文言で締めくくられています。 

「アフリカのことわざに、「早く行きたければ一人で行きなさい。遠くに行きたければ一緒に行きなさい」というものがあります。ここからの道のりはあなた自身のものですが、あなたの学習をサポートし、あなたの進歩を応援してくれる多くのつながりのある教師とともにそれを成し遂げることができるのです。」 

 つながりをもつ教師であること、これこそが学校で求められているものの一つであることは間違いありません。

 

  

2025年2月16日日曜日

フィードバックの重要性

    初任者教諭や実習生、およびメンターチームにおけるメンティーである教諭との関わりにおいて大切なことは何か。私はいかに「自分を俯瞰するタイミングを設定できるか」、そして「様々な視点で自分を振り返る機会を設定できるか」だと考える。

  先日、以下の記事が掲載され、目に留まった。

https://www.edutopia.org/article/supporting-preservice-teachers-practicum

  記事の中で校内指導教諭と実習生や初任者教諭、メンターとメンティーといった関係性における重要なポイントとして以下の5点が提案されている。

 1. 明確で具体的なフィードバック

 2. デモンストレーション授業の実施

 3. ニーズに応じたワークショップ

 4. 実際のクラスにおけるサポート

 5. メンタル面のサポート

つまり、現状をしっかりと、共に分析する。そして、実践的な対応方法を実際の場面を想定して考えたり、必要に応じてワークショップ等を行ったりして身につけていく。その上で、教室内や実際の指導に立ち会い、指導のサポートを行ったり、日々の悩みや疲れ等に寄り添いながらメンタル面のサポートを行ったりしていくことが求められるということだ。その中でも私は今回、1について着目した。

私は今、初任者3名と向き合っている。それぞれ性別も立場も性格も異なる3名だ。そのうちの1名は初任者指導教諭に毎回、肯定的な言葉かけをされている。

「~ところがいい。初任者としてはもう十分。~をがんばったね。」等

  その言葉かけ自体はとても大切だと私も思う。★ 認められれば認められるほどしっかりと伸びる人もいる。ただ、先日、校内研修をしている際、こんなことをつぶやいていた。

  「私はまだまだ、全然できていない。どこをどうすればよくなるのか、もっと知りたい。」

  そんな彼と私は年間で目標を設定している。『どんな教師になりたいか』という理想の教師像だ。その教師像に近づくために、どんな手立てが必要かを明確にした上で、毎月力を入れる手立てを決める。その手立てに取り組んだ結果を毎月自身で振り返り、私からもフィードバックしている。

このフィードバックを適切にできるように、私は毎日学校を見まわる中で、その様子をしっかりと観察する。実際の場面や指導の様子を共有することで、フィードバックに具体性が増すのだ。フィードバックを受けた初任者は次の月の手立てを決める。

  これに加えて、3名の初任者とのフィードバックの時間も不定期ではあるが設けるようにしている。それぞれの初任者から見た、お互いの成長と課題を対話しながら見出していく。そうすることで、自分には見えない新たな自分の一面を俯瞰できるようにする。新たに視野を広げて、よりよい手立てや自分に必要なこと、自分の強みを見つけることができる。そうすれば自己肯定感も高まる一方で課題も見つけ、手立てを思考することができるようになる。一石二鳥だ。

  例えば、「個別支援に力を入れる」と決めた月には、自身がどのように取り組めたかのフィードバックを決めたその当人まずはする。その目標とフィードバックは校内指導教諭である私も含めた他の初任者にもデータ入力することで「見える化」されていて、どんな点でうまくいったのか、何が思うようにいかなかったのかが分かるようになっている。

…○○の教科では~の形で個別支援を行った。すると今まで■■だったものが、□□となり効果を感じた。

といった様子だ。そのフィードバックに対して、公開授業や普段の学級経営の様子、何気ない会話から感じた成長した点や努力点について他の初任者からフィードバックが提供される。すると自分に見えなかった視点でその月の努力や変化について考えることができる。

「…前の月に比べて、~~なところを意識していたよね」「公開授業でやっていた△△も個別支援の一つに見えたけど、どう思う?」といった感じだ。

そのやり取りを受けて、私が最終的にフィードバックをする。どんな点が良い変化として表れていたか、見たこと感じたことを自分の視点で伝えられるようにする。その上で、次の目標となりそうな点について「問いの形」を意識して、初任者自身が自分で考えて次の目標を設定できるように投げかける。

「…個別支援を続けることで、分かる・できる思いをする児童が増え、自己肯定感が高まります。学級としてもプラスの雰囲気となりますよね。ちなみに学級の雰囲気という視点でみると、今月の授業態度はいかがでしたか? 授業態度は日々の生活を映し出しますよね。そんな姿からも学級の状態というものがよく分かります。先月は個という視点で見ていたものを今月は学級全体で見てみるとどうでしょうか?…今の学級に足りないものは何ですか?…その足りないものを補うためにできる手立てにはどんなものがありますか?…その中でまず、取り組んでみるべきものは何だと思いますか?…」

このようにすることで、その1か月で努力できたことに自信をもち、加えて次の月への取り組みの手立ての意欲をかきたてることにつながった。

  よく「今の若い人の指導は難しい」という言葉を聞く。果たして本当にそうだろうか。そのような発想をすることがよい関係を築くことを難しくしてしまっているのではないのだろうか。「指導する側とされる側」ではなく、共に子どもを見守る教師としてお互いに高め合っていくことができるように、「自分を俯瞰する機会」と「様々な視点をもって自身を振り返ることができる機会」をもつことができるように、フィードバックの充実を図りながら、若手教員の働きやすい環境を構築していきたい。

 以上は、1月19日に第7弾を紹介している、埼玉で教務主任/初任者校内指導教諭をしている田所昂先生の第8弾です。

★これはフィードバックとしては、極めて弱いと言わざるを得ないです。『オープニングマインド』(特に、第4章)を参照ください。