2017年12月3日日曜日

探究学習


 先日、理数教育の充実を図るために文部科学省からスーパーサイエンスハイスクールSSH★の指定を受けている学校を訪問する機会に恵まれ、「課題研究」に取り組む高校生の探究学習の様子を参観することができました。 

その高校では、2年生が物理、化学、生物、地学、数学の5分野に分かれ、それぞれ2~4人で構成されるグループで活動していました(数学は2人ずつのペアでした)。分野ごとのグループの数は、物理と生物、地学が3グループ、数学が2、化学は1でした。参加する生徒の興味関心によって、年度によって分野ごとのグループの数は変化するそうです。 

それぞれのグループでは、自分たちの研究課題・テーマの解決を目指して、協同しながら観察・実験・PCによる数値シミュレーションあるいは実験装置の作成・改良などに取り組んでいました。多くのグループが、試行錯誤しながら年度末に行われる研究発表会に向けて生き生きと活動しているという印象を受けました。 

課題研究に取り組んでいる高校生と助言・指導されている何人かの先生に、課題研究のポイントとなる「課題設定」をどのように行っているのか尋ねてみました。およそ以下のとおりでした。★★

1 生徒自身の興味関心、疑問、調べてみたいことを基本とする・尊重する。

2 これまでの先輩たちの課題研究をレビューしたり、1年生のときに参加した県内外の「SSH生徒研究発表会」や校内の「課題研究最終発表会」における他校や先輩の課題研究の内容を参考にする。★★★

3 興味関心が同じ・似たメンバーでペアあるいはグループをつくり、一人一人の興味関心や疑問、調べてみたいこと、観察・実験などを通して明らかにしたいことをいくつも出し合って、それらをもとにしてお互いが納得できるまで徹底的に話し合う。

4 1年間という限られた時間的制約の中で、課題解決の見通しがもてるものかどうかを吟味検討する。

5 4と関連することですが、間口を広げ過ぎて取り組むべき内容が多くなり過ぎないように、できる限り課題・テーマ・研究内容を絞り込む。 

 それぞれの担当の先生方は、指導しているというよりも「見守っている」といったスタンスで、グループが行き詰まってどうしようもなくなったときにアドバイスをしたり、参考になる情報を提供するということでした。 

また、自分たちの課題研究に関する情報収集や研究者からのアドバイスを得るために、関連の科学館・博物館や大学・研究機関に出かける行動力のあるグループも毎年いるそうです。 

 この課題研究に取り組んでいる高校生の学習状況は、『「学びの責任」は誰にあるのか』で詳しく紹介されている「責任の移行モデル」の第3段階:「協働学習」に相当するものだと思います。課題設定の3については、「質問づくり」『たった一つを変えるだけ』)のやり方に相当するものです。ただ「質問づくり」の方法を活用すれば、もっとスムーズに焦点化された課題・テーマにたどり着けるのではないかと感じました。 

 さらに、課題設定だけでなく、PBL 学びの可能性をひらく授業づくり』で紹介されているPBLProblem-based Learning)のモデルやカリキュラム設計、進め方が、そのままSSHでの「課題研究」にも当てはめることができます。別の表現をすれば、SSHにおける課題研究は、科学教育におけるPBLであるともいえます。 

 今年3月に公示された次期学習指導要領には、「主体的・対話的で深い学び」の実現とそのための授業改善を行うことが明記されています。しかし、この「主体的・対話的で深い学び」を実現するための明確な道筋や具体的な方法論については、学校現場には示されていません。2020年度からの完全実施を控え、多くの先生方は先が見通せない霧の中にいるような状況です。 

 「主体的・対話的で深い学び」を実現するための極めて有効な手立てが「探究学習」です探究学習の実践モデルであるPBLとこれまで多くのSSHの「課題研究」の取組で得られた「理数教育における探究学習」に関する知見やノウハウをぜひ全国の高校に広めるとともに、小中学校にも広めてほしいと強く願っていますSSHに指定された高校には、取組で得られた成果を地域の他の高校や近隣の小中学校等に普及することが求められているのですから。 



★  SSHへの支援協力を行っている国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のHPには、科学技術系の次世代人材育成事業の一環として行われているSSHについて「高等学校等において、先進的な理数教育を実施するとともに、高大接続の在り方について大学との共同研究や、国際性を育むための取組を推進します。また創造性、独創性を高める指導方法、教材の開発等の取組を実施します」と書かれています。SSHの指定は平成14年度から始まり、平成28年度に指定されている高校は全国で200校にも上ります。事業費として毎年20数億円もの予算がつけられています。原則5年間の指定で、1校あたり年間900万円~1,600万円の予算です。 

★★  研究課題・テーマの設定に時間がかかり過ぎたり、どうしても課題・テーマが絞り切れないようなグループの場合は、担当の先生からアドバイスを与えるだけでなく、グループが関心のある分野・領域に関連した複数の課題を提示し、その中からグループで話し合って自分たちが追究する課題を選択してもらうとのことでした。 

★★★  1年生のときに行われる「臨海実習」での海洋生物に関する実習や海岸近くの露頭での地層・岩石・化石などの観察・調査、さらに「SSH高大連携講座」として大学と共同で行う湖沼の水質環境調査や夏休みに大学・公的研究機関・民間企業の研究所などで行われる「サイエンスキャンプ」★★★★に参加し、先端技術や実験・実習で体験したことを、課題設定や課題研究そのものに生かすよう奨励しているそうです。 

★★★★  サイエンスキャンプとは、先進的な研究テーマに取り組んでいる大学、公的研究機関、民間企業の研究所などを会場として、第一線の研究開発現場で活躍する研究者や技術者から直接指導を受けることができる、実験・実習を主体とした科学技術体験合宿プログラムです。高校生を対象としたサイエンスキャンプは、1995年度~2015年度まで実施されました。

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